事例研究(営造物責任) 2022/06/28

【「仮面女子」猪狩ともかさんの請求棄却 看板落下巡る国賠訴訟】~毎日新聞


<記事抜粋>

東京都文京区の国指定史跡「湯島聖堂」に隣接した路上で2018年、聖堂敷地内から倒れた看板の下敷きになり車椅子生活となったアイドルグループ「仮面女子」の猪狩(いがり)ともかさん(30)と両親が、国に計1000万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁(成田晋司裁判長)は27日、請求を棄却した。

訴状によると、18年4月、湯島聖堂敷地内にあった看板(高さ約2・8メートル、横幅約3・8メートル)が強風の影響で支柱から折れ、歩いていた猪狩さんを直撃した。

猪狩さんは脊髄(せきずい)を損傷し、両脚にまひが残った。

国は聖堂の管理を公益財団法人に委託しており、猪狩さんと同法人との間では裁判外で和解が成立している。


<争点>

営造物責任の成否


<所感>

この事件でよく分からないのが、湯島聖堂の管理費用を国が負担していなかったのか、負担していた場合どの程度の割合で負担していたか、という点である。

類似事案の鬼ヶ城転落事件(最判昭50.11.28)では、管理者は地方公共団体であり、国賠法3条1項が直接適用されるケースだったが、本件は、管理者が公益財団法人であり、同条項の直接適用は難しそうだ(ただし、国家賠償法上の「公共団体」は地方公共団体に限定されないという解釈が通説であり、たとえ民間団体である公益財団法人であっても「公共団体」に該当するという解釈は十分とりうる。)。

しかし、国指定史跡の管理費用の補助を国が一切していないということは考え難く、仮に管理費用の50パーセント以上を国が負担していたのであれば、国賠法3条1項の類推適用によって国の費用負担者としての責任を認めるべきではないか。

記事には、猪狩さんと公益財団法人との間では裁判外で和解が成立している、とあるが、公益財団法人は共同被告ではなかったのか。

あるいは共同被告だったけれども、弁論が分離されて訴外の和解が成立したことにより訴えが取り下げられたのか。

実体面もさることながら、手続面でも謎が多い判決である。