事例研究(準強制性交等罪) 20220701

【毎日放送の新入社員の男 男子大学生に酒飲ませ性的暴行か “準強制性交容疑”で逮捕 京都府警】~ヤフーニュース


<記事抜粋>

毎日放送(MBS)の社員の男がSNSで知り合った男性に性的暴行を加えたとして、京都府警に逮捕されました。

府警などによりますと、準強制性交の疑いで逮捕されたのは、毎日放送の制作スポーツ局に所属するY容疑者(25)です。

Y容疑者は今年5月、京都市上京区の自宅でSNSで知り合った男子大学生(22)に酒を飲ませて抵抗できない状態にして、性的暴行を加えた疑いです。

男子大学生が警察に被害届を出したことで発覚し、警察の調べに対し、Y容疑者は「間違いありません」と容疑を認めているということです。


<争点>

準強制性交等罪


<所感>

準強制性交ではなく、本件の記事では正確に「準強制性交等」と書いてほしかった。

「強制性交等」の概念は、平成29年の刑法改正によって導入されたものである。

かつては「強姦」という概念が用いられていたが、強姦罪はもっぱら女性の性的自由を保護法益とする犯罪類型であり、したがって強姦罪の被害者は女性に限定されていた。

しかし、上記記事の件のように男性の性的自由が侵害される事案も昔から存在し、近時男性の性的自由をより強く保護する必要性が認識されてきた。

法改正前は、男性の性的自由がまったく保護されていなかったわけではなく、男性の性的自由を侵害する行為については「強制わいせつ罪」が適用されていた。

ただ、「強制わいせつ罪」の法定刑は「6月以上10年以下の懲役」であり、強姦罪よりも軽く処断されていた。

そこで、刑法177条前段は、平成29年の法改正により「13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。」という規定になり、刑法178条2項の準強姦罪(=旧法の表現)も「準強制性交等罪」に改められた。

このような改正経緯に照らすと、上記記事の事案における犯行態様は「性交」というよりも条文どおりに「性交等」と表すのが正しい。

「準」という文言は何を指すかといえば、暴行・脅迫以外の手段(例:度数の高い酒を飲ませて酔いつぶす。睡眠薬入りの酒を飲ませて意識混濁状態に陥れる。)を用いて、人を心神喪失若しくは抗拒不能の状態にさせ、性交等に及ぶという事態を指している。

つまり、暴行・脅迫を手段とする強制性交等に「準ずる」犯罪が「準強制性交等罪」である。

ここで、勉強し始めたばかりの法学部生でまだ民法の講義しか聴いていない人は、強姦罪の規定(旧刑法177条)を男性に類推適用すればいいのではないか、わざわざ改正する必要があったのか、という疑問を持つかもしれない。

結論から言うと、改正する必要はあった。

なぜならば、刑法解釈学の世界では、類推解釈・類推適用が禁止されているからである。

平成29年改正刑法の趣旨は、主として性犯罪の重罰化にある。

重罰化というのは、法定刑の引き上げだけではない。

従来軽い犯罪類型と考えられていた行為(例:男性に対する強制性交等)をより重く処罰するために、実行行為を拡張(例:「性交」に加えて「肛門性交」、「口腔性交」も実行行為とし、強制性交等罪の成立範囲を拡張すること。)するのも一種の重罰化である。