事例研究(未成年者と選挙運動) 2022/07/11

【4歳おんぶして演説は法律違反? 立候補の母が直面した「思わぬ壁」】~朝日新聞デジタル


<ツイートの引用>

《立候補予定者向けの説明を都選挙管理委員会から受けていた時、思わぬことを言われた。

「選挙期間中に、子どもを抱っこしたり、一緒に歩いたりするのは法律違反にあたる可能性があります」》


<争点>

未成年者と選挙運動の関係


<所感>

公職選挙法137条の2第1項は「年齢満18年未満の者は、選挙運動をすることができない。」と定め、同条第2項は「何人も、年齢満18年未満の者を使用して選挙運動をすることができない。ただし、選挙運動のための労務に使用する場合は、この限りでない。」と定めている。

これらの規定に違反すると、1年以下の懲役又は30万円以下の罰金刑に処せられる(公職選挙法239条1項1号・同法137条の2)。

まず、抱っこされたり親から手を引かれている年齢の乳幼児が自らの意思に基づき選挙運動をすることは通常考えられないので、同法137条の2第1項違反には当たらない。

そうすると、乳幼児を「抱っこ」したり「一緒に歩く」行為が、同法137条の2第2項の選挙運動使役行為ないし選挙運動利用行為に該当し、処罰の対象となるかが問題となるが、これが乳幼児を選挙運動に使役ないし利用する行為に当たると考える人はまれだろう。

子どもを連れて歩くことで同情票を集める、という目的で、その必要もないのに子どもを連れ歩くのはさすがにどうかと思うが、候補者の中には、夫又は妻に預けたくても預けられない、託児所等の施設も利用できなくて困り果てて仕方なく乳幼児を抱っこしたり手を引いて一緒に歩いて選挙運動をせざるを得ない、という候補者もいるのではないか。

「そこまでして立候補する必要はない。」とばっさり切り捨てる人もいるかもしれないが、そこは個人の判断(自己決定)にゆだねるべきである。

子どもを連れ歩いてでも立候補して選挙運動をして当選したい、という人の立候補の自由(憲法15条1項)を奪うことは誰にもできないだろう。

いずれにせよ、乳幼児を抱っこしたり手を引いたりしながら選挙運動する行為をもって「未成年者を使用した」とみるのはいささか拡張解釈が過ぎるのではないか。

引用のツイッター投稿にあらわれている選挙管理委員会の見解は、これを示すことが憲法15条1項の「立候補の自由」の侵害に当たるおそれがある。