事例研究(審査請求の対象②) 2022/12/18

先日投稿した記事で紹介した最高裁第三小法廷判決(最判令4.12.13)が最高裁のホームページにアップロードされたので、リンクを貼っておく。

やはり原審判決破棄自判・訴え却下の判決だった。

上告人(=組合員)が本件の通知を受けてから10か月以上経過した時点で審査請求がなされており、正当な事由なく審査請求期間を徒過したことを理由とする却下判決である。

なお、審査請求期間は、処分があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内又は処分があった日の翌日から起算して1年(社会保険審査官及び社会保険審査会法上は2年)以内で、正当な理由(ないし正当な事由)がある場合にはこれらの期間を徒過した後も審査請求をすることが許される。

本判決では、「正当な理由(正当な事由)」の有無に関する詳細な判示はなされていない。

しかし、審査庁が処分性要件を充足しないことを理由に審査請求を却下したということは、当該通知の際に審査請求期間の教示はなされていない可能性が高いから、審査請求期間の徒過を理由として訴えを却下する旨の判断の正当性は疑わしい。

この点、最高裁第三小法廷を構成する判事の一人である宇賀克也裁判官の反対意見が参考になるから、行政法を学習・研究している人(ex.予備試験受験生、行政書士試験受験生、資格試験予備校講師)は必ずこの反対意見を精読すべきである。

行政書士試験受験生は、自らこの反対意見を読み解くのが難しければ、積極的に予備校講師に質問して読み方を教えてもらった方が良い。

私見としては、本判決に付されている宇賀裁判官の反対意見に賛同する。

宇賀裁判官は、審査請求期間の争点のほか、審査請求前置、出訴期間、本案の判断にも言及したうえで、最高裁は原審判決破棄差戻しをすべきだったと結論付けている。

宇賀裁判官反対意見は、平成26年の行政不服審査法の改正趣旨と関連法改正経緯から説き起こし、旧行政不服審査法14条1項ただし書の「やむを得ない理由」と社会保険審査官及び社会保険審査法4条1項ただし書の「正当な事由」が同義であっていずれも教示の懈怠を含まないと解する多数意見の誤りを正すべく法体系全体との整合性を保つ合理的立法者意思解釈を実施したうえで、「やむを得ない理由」という旧行政不服審査法14条1項ただし書の文言が何故「正当な理由」(新行政不服審査法18条1項ただし書)と改められたかを論じて、本争点の結論としては「正当な事由」(社会保険審査官及び社会保険審査会法4条1項ただし書)は、旧行政不服審査法14条1項ただし書の「やむを得ない理由」と同義ではなく、新行政不服審査法18条1項ただし書の「正当な理由」と同義であって、行政不服審査法の改正趣旨に照らすと処分庁による教示の懈怠は社会保険審査官及び社会保険審査会法4条1項ただし書の「正当な事由」に該当するから、審査請求期間の徒過を理由として訴えを却下した多数意見が誤りである旨述べる。


宇賀裁判官反対意見の大部分は、「正当な事由」(社会保険審査官及び社会保険審査会法4条1項ただし書)の解釈に割かれており、本案の判断については数行で原判決の本案判断の誤りを指摘している程度しか述べられていないが、保険者(=健康保険組合)の裁量権行使の適切性に関する問題が生じた事案であることから、最終結論として、原判決破棄・差戻しとすべきであった旨の宇賀裁判官の見解は至当といえる。


(最判令4.12.13の判決文については以下を参照のこと:出典・最高裁ホームページ)

chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/604/091604_hanrei.pdf