今話題の検察庁法等の改正について
検察庁法等の改正について歌手がしたTwitter投稿を「歌手やってて知らないかもしれないけど」などと揶揄する,という残念な出来事があったことをきっかけに,検察庁法等の改正がなぜいけないことかについて,法律家として,また,法教育に携わる者として,考察してみました。
周知のとおり,検察庁法等の改正案は,検事を含む国家公務員の定年を漸次伸長するとともに,内閣の裁量により,検察の幹部の定年を延長することができる,という内容のものです。
まず,政府見解がどのようなものであるかを確認しておくと,検察庁法等改正の趣旨は「高齢の公務員の知識と経験を活用する。」というものです。この点だけを独立して考えると,たしかにそのとおりだと思われる面もあります。
しかし,一般職の国家公務員とは異なる立場にある検事の幹部級の人について,定年延長を内閣の裁量で行う必要があるのか,ということが疑問点として浮上します。憲法73条4号は「法律の定める基準に従ひ,官吏に関する事務を掌理すること」を内閣の事務としているので,「官吏」=国家公務員の人事を行うことは内閣の事務です。
しかし,憲法にも明記しているように,「法律の定める基準」に従う必要があるので,内閣はひとまず既に制定されている検察庁法に基づいて人事を行う必要があります。
ところが,安倍内閣は,検察庁法に基づくことなく,閣議決定だけで黒川東京高検検事長の定年延長を決定してしまいました。現行の検察庁法は,内閣の裁量による定年延長を認めていません。なぜならば,内閣の裁量で定年延長が認められるとすると,検察官の独立性が害されることになるからです。
検察官は,国会議員や内閣総理大臣を起訴することができる職業です。そこで,内閣は,検察官の定年延長をえさにして飼いならすことによって,自己に対する刑事責任の追及を避けることができるようになります。
政治家の不正を検察官が糾すことができなくなれば,政治腐敗が急激に進行することは陽を見るよりも明らかです。
この点,安倍内閣は,定年延長を内閣の裁量で決定する際には具体的な基準に基づいて行うから恣意的な運用がなされる危険はない旨説明しています。
しかし,法務大臣や国家公務員担当大臣の委員会答弁をみても,具体的基準が示されていません。仮に具体的基準を示したとしても,その厳格性について今後の論争の対象になることは明らかですし,そもそも内閣がいう「基準」というのは,行政法的には「裁量基準」ですから,非常事態・緊急事態には当該基準に拘束されずに運用されるものとなります。
結局,現在,内閣が必死に通そうとしている検察庁法等の改正法案は,安倍内閣の情実人事を正当化するための便法にすぎないものですから,これがまかりとおるということになると,政治家はやりたい放題ということになります。
また,検察官が政治家に迎合して実務を行うようになることの危険性は,戦前に治安維持法という悪法が施行されていたことに鑑みて明らかなことです。検察官には強力な捜査権限があります。だから,政治家から請託を受けて検事が不当捜査・不当逮捕・不当起訴を行うようになってしまうと,戦前の恐怖政治に逆戻りしてしまうのです。
現職の検察官の方々は,皆さん良識のある方だと私は思っているので,政治的圧力に屈しないと信じていますが,今後新たに検事に就任する人たちがそうならない保証はどこにもありません。
以上に述べたことが,現時点での私の考察結果です。
みなさんの参考にしていただければ幸いです。
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