最近のニュースから【労働法~育児介護休業制度】

アシックス男性社員「パタハラ」訴訟、和解成立


<記事抜粋>

「育児休業から復帰したあと倉庫勤務を命じられたのは不当などとして、「アシックス」(本社:兵庫県神戸市)で働く男性(39)が、同社を相手取り、不本意な配置転換の無効や慰謝料約440万円などを求めた訴訟は3月29日、東京地裁(伊藤由紀子裁判長)で和解が成立した。首都圏青年ユニオンが取材に明らかにした。」

「和解内容は非公表。」


原告・組合のコメント:

「原告は、被告が、今後も関係法令を踏まえて育児休業を取得しやすい職場環境の整備に努める旨を表明したことを受け、首都圏青年ユニオンには利害関係として参加してもらい、三者で和解を成立させることに至った。原告及び組合は、今後も、男性も女性も、育児休業を取得しやすい職場作りのために尽力し、日本社会を子育てのしやすい社会にしていくよう尽力する。」




<所感>

育児介護休業法第10条は,「不利益取扱いの禁止」という見出しのもと「事業主は、労働者が育児休業申出をし、又は育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。」と定めている。

育児休業取得後,職場に復帰した男性が,会社から育児休業取得を理由として意に反する出向を命じられたことが,同条の「不利益な取扱い」に該当するとして争った事案。

記事によれば,和解が成立したとのことであるが,慰謝料の額や謝罪文言,誓約文言の有無等は非公開とされている。

和解の内容が非公開とされていることから,和解条項として口外禁止条項(当事者双方に守秘義務を課す条項)が入っている可能性が高いが,和解中の給付条項違反について弁護士に相談する必要がある場合など「正当な理由」があれば口外が許されると解されている。

それはともかく,準備書面や証拠を一切見ていないのであくまで推測となるが,解決金は50万円前後で,「以後原告が再度育児休業・介護休業を取得した場合に,意に反する配転を命じない」ことを会社が約束する,という内容の和解ではないかと考えている。

男性従業員の育児休業取得に伴って,今後同様のパタハラ(パタニティ・ハラスメント)の事案が増えることが予想される。

会社は,答弁書で「男性を配属するに適した部署を探す努力を継続してきた」ものであり,パタハラにあたらない旨主張していたようだが,たとえ原告が休業前に所属していた部署に過員を生じたため他の部署への配置転換を検討していたとしても,いきなり関連会社への出向を命じるのではなく,原告への丁寧な打診,説得が必要だったのだろう。

この点,育児介護休業法第10条で禁止される「不利益な取扱い」の内容について,厚生労働省が「子の養育又は家族の介護を行い,又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針」(平21厚労告509号)で定めており,同指針は,「不利益な配置の変更を行うこと」に関し,「配置の変更前後の賃金その他の労働条件,通勤事情,当人の将来に及ぼす影響等諸般の事情について総合的に比較考量の上,判断すべきものであるが,例えば,通常の人事異動のルールからは十分に説明できない職務又は就業の場所の変更を行うことにより,当該労働者に相当程度経済的又は精神的な不利益を生じさせること」は不利益取扱いに当たるとしている。

改正育児介護休業法の立法趣旨は,少子化対策及び介護離職の防止という点にある。

かかる立法趣旨に鑑みると,育児介護休業の取得を躊躇させるような会社の処遇は極力斥ける必要がある。