最近のニュースから【行政法~国家賠償請求:時短命令の違法性】
グローバルダイニング社が東京都を提訴 長谷川社長、時短命令に「納得できないことにウンとは言えない」
<記事抜粋>
「東京都から新型インフルエンザ対策特別措置法に基づく時短命令を受けた外食飲食チェーン「グローバルダイニング」が22日、都の命令は違法だとして損害賠償を求めて東京地裁に提訴した。」
「都は18日、時短要請に応じなかった2000店舗を超える飲食店のうち27店舗に対し、同日から21日の4日間に午後8時以降の営業を停止するように命じる時短営業命令を出していたが、27店舗のうち26店舗はグローバルダイニングの店だった。」
「請求額は26店舗の営業が4日間停止したことを理由に104円とした。」
<所感>
東京都における緊急事態宣言解除前に発せられた時短命令により4日間にわたり午後8時以降の営業ができなくなり営業上の損害が生じたとして,処分の根拠法令(新型インフルエンザ等対策特別措置法。以下「本件特措法」という。)の違憲性などを争点として,飲食店経営企業が東京都を被告として国家賠償請求訴訟を提起した事例。
時短命令が発せられた27店舗のうち,26店舗がグローバルダイニング社の店舗だというから,狙い撃ち的な処分であることは明らかであり,平等原則違反も問題となりそうである。
4日間の時短措置とはいえ,26店舗分の営業損害が発生しているにもかかわらず,訴額はわずか104円(なお,本訴訟は一部請求訴訟であり,実損害全部について請求しているわけではない。)としていることから,同社が社会的に問題提起する趣旨で本訴訟を提起していることは明白である。
本件を憲法の問題として考えてみると,まず,営業の自由が憲法22条1項の保護範囲に入っていることは争いがなく,次に,従前自由に営業できていた時間帯に営業することができなくなっているので,本件特措法及びこれに基づく時短命令によってグローバルダイニング社の飲食業の自由が制約されていることも明白である。
したがって,問題は,本件特措法及びこれに基づく時短命令による,グローバルダイニング社の営業の自由に対する制約が必要かつ合理的なものとして正当化できるかという点にある。
本件特措法の法令違憲性について検討すると,本件特措法の立法目的は,「新型インフルエンザ等の発生時において国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済に及ぼす影響が最小となるようにすること」(本件特措法1条)であるところ,国民の生命及び健康の保護と国民生活及び国民経済に及ぼす影響を最小限にとどめることはいずれも重要な公共の利益を図るものであるから,規制目的の必要性及び合理性は認められる。
他方,本件特措法における規制手段についてみると,同法45条1項で特定都道府県(=緊急事態宣言が発せられた都道府県)の住民に特定都道府県知事が外出制限を要請できることと呼応して,特定都道府県知事は同法45条2項により当該都道府県内の施設管理者等(学校,福祉施設,興行場その他いわゆる場屋営業を営む事業者を指す。居酒屋等の飲食店もこれに含まれる。)に対して,「当該施設の使用の制限若しくは停止又は催物の開催の制限若しくは停止」等の措置を講ずることを要請することができる。いわゆる時短要請は同条項の「要請」として行われたものであり,行政指導の一種と解される。
そして,当該「要請」に応じなかった施設管理者等に対しては,特定都道府県知事は,「新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため特に必要があると認めるときに限り」当該要請に係る措置を命ずることができる(本件特措法45条3項)。本件の時短命令は同条項に基づき発せられたものである。
この点,薬事法違憲判決(最大判昭50.4.30)で最高裁は,薬局距離制限が必要最小限の規制(LRA)に当たるか否かについて,立法事実と現実に措定された規制措置との間の因果関係が認められないことをもって,規制の必要最小限性が認められない旨判示している。
この薬事法事件最高裁大法廷判決をふまえて考えると,本件特措法の規制措置が必要最小限の措置といえるかはにわかに判断し難い。
政府は,飲食店に客が来集することと新型インフルエンザ等の感染拡大の間の自然科学的因果関係が明らかであることを前提として,感染拡大予防のための規制としての必要最小限性を主張するものと思われる。
しかし,食品衛生法令に基づく食品衛生行政で一般的に行われているような店舗ごとの個別調査を実施することなく一律に飲食業に対して網羅的に同一の規制を施すことが本当に必要最小限の規制手段といえるかについて相当疑問の余地がある。
そもそも,本件特措法の当該規定に基づく規制はいずれも事前規制であり,これを正当化するには,事後規制と比べて,より高度の必要性と合理性の立証が政府に求められる。
また,本件特措法における規制を正当化するには,規制の「必要性」と「合理性」だけではなく,緊急に当該規制を実施する必要があったことという「緊急性」の判断要素も考慮に入れる必要があるものと思われる。ただ,「緊急」の名のもとに,漫然とあらゆる規制が正当化されてはならない。
私見はさておき,判決予測としては,おそらく合憲となるだろうが,裁判所には,簡潔な理由付けではなく,詳細な理由を示してほしいと思う。
本件では,上記のほか,時短命令をグローバルダイニング社に対して狙い撃ち的に発したことについて,憲法14条及び31条に違反するのではないかという適用違憲の問題も検討すべきであるが,この点については,裁判の経過をみたうえで追って検討したい。
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