最近のニュースから【地方自治法~100条調査権】

大阪・池田市長サウナ問題、百条委が市長告発へ


<記事抜粋>

「大阪府池田市の冨田裕樹市長(44)が、庁舎内に私物の家庭用サウナなどを持ち込んでいた問題で、市議会調査特別委員会(百条委員会)は12日、証人喚問で虚偽の証言をしたとして、地方自治法違反罪で、冨田氏を大阪地検に告発することを決めた。近く臨時市議会に諮り、正式に決定する。」

「冨田氏は証人喚問に応じたが、市長と他の証人の言い分に食い違いがあることなどから、百条委では冨田氏の証言には虚偽が含まれると認定した。」

「また、この日、百条委は調査報告書のとりまとめを行い、冨田氏の庁舎への私物大量持ち込みに関して「公私混同であり、市長としてあるまじき行為だったと判断せざるを得ない」などと指摘。冨田氏について「市長としての資質に欠ける」として、「不信任相当」と明記した。」

「百条委による職員へのアンケートなどから市職員に対するパワーハラスメント疑惑も浮上した。冨田氏は関与を否定したが、百条委は「多くの職員から証言が集まっている」ことなどからパワハラも認定した。」



<所感>

地方自治法第100条第1項は,

「普通地方公共団体の議会は,当該普通地方公共団体の事務(……(略)……)に関する調査を行うことができる。この場合において,当該調査を行うため特に必要があると認めるときは,選挙人その他の関係人の出頭及び証言並びに記録の提出を請求することができる。」

と定めている。


同条項の調査権限のことを一般に「100条調査権」という。

いうまでもなく,地方自治法第100条で規定されていることが通称の由来である。


100条調査権は,憲法上,国会の両議院に国政調査権(憲法62条「両議院は,各々国政に関する調査を行ひ,これに関して,証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる。」)が認められていることと呼応して,地方議会にも国会両院と同様の調査権限を付与する趣旨で設けられた制度である。

国政調査権も,100条調査権も,いずれも議院(地方議会)に与えられた権能(立法のための審議等の権能)を実効化するために付与された補助的な権能と解されてきた。

古くはロッキード事件で田中角栄らが国会に証人喚問されたという出来事があったが,これは憲法上の国政調査権行使の一環として行われたものである。


100条調査権は,地方自治法に根拠を持つ制度であり,上記のような趣旨で設けられたものの,「これまで必ずしも積極的に行使されてきたとはいえない」(宇賀克也・地方自治法概説[第8版]268頁 有斐閣)と言われてきた。


しかし,最近は,東京都千代田区における100条調査権発動の事案のように,この制度を活用した事案がニュース報道されることが多いように思われる。

本件は,100条調査権活用の一事例である。


記事の市長は,証人喚問で虚偽の証言をしたとして,地方自治法違反で大阪地検に刑事告発されることになりそうだが,刑事告発に関する法律上の根拠は以下の二つの条項である。


地方自治法100条第7項「第2項において準用する民事訴訟に関する法令の規定により宣誓した選挙人その他の関係人が虚偽の陳述をしたときは,これを3箇月以上5年以下の禁錮に処する。」

同条第9項本文「議会は,選挙人その他の関係人が,第3項又は第7項の罪を犯したものと認めるときは,告発しなければならない。」


上記各条項に定めるとおり,地方議会は,証人が宣誓に反して偽証した場合には,地方自治法100条7項の偽証罪として,原則として刑事告発しなければならない。

ただし,偽証をした証人が,「議会の調査が終了した旨の議決がある前に自白したときは,告発しないことができる」旨の例外規定(地方自治法100条9項ただし書)があり,記事の市長が調査終了前に自白していたら刑事告発がなされない可能性があったが,市長は自白しなかったものと思われる。


本件は,100条調査が実施される以前から池田市のサウナ持ち込み市長の件として報じられていたが,市長の公私混同という古くから存在する問題にあらためて照明を当てるきっかけとなる事件である。


なお,記事によると,100条委員会は,市長に関して,調査報告書に「「市長としての資質に欠ける」として、「不信任相当」と明記した。」とのことである。

地方自治法第178条は,地方公共団体の長に対する議会の不信任制度に関する定めを置いている。

市長の著しい公私混同を理由として不信任議決がなされるかはまだ分からないが,仮に不信任議決がなされた場合には,長が議会解散権(地方自治法178条1項後段)を行使することも予想される。


わが国の地方自治法は,地方の統治機構に関し,首長制を採用しており,これはアメリカの大統領制を模したものである,としばしば評される。

しかし,最近の行政法学界では,むしろ多元的代表制(長も議会もいずれも住民の直接選挙によって選ばれるため,いずれも住民の代表者たる地位に立つとする考え方。)を採用したものであり,長と議会の相互抑制・均衡の緊張関係の上に地方政治が成り立っていると考える識者があらわれている。


本件は,多元的代表のシステムによって長と議会の間に抑制・均衡の緊張関係がもたらされ,適正な地方政治運営の確保に向けて機能している活きた事例であるといえよう。