最近のニュースから【会社法~指名委員会等設置会社】

東芝・車谷社長が辞任へ 後任は綱川会長が復帰


<記事抜粋>

「東芝の車谷暢昭社長が14日午前の臨時取締役会で辞任を表明することがわかった。車谷氏は、経営方針や子会社の不祥事、企業統治をめぐる不備などを背景に大株主である海外ファンドとの関係が悪化。社内にも不満がたまっていた。」

「後任の社長には綱川智会長が復帰する。綱川氏は車谷氏の前任の社長。」



<所感>

日本の大手電機メーカー(現在は純粋持株会社)である株式会社東芝の社長が,令和3年4月14日,臨時取締役会で辞任を表明する。


東芝は,現在,指名委員会等設置会社(会社法2条12号)という会社形態をとっている。

指名委員会等設置会社とは,指名委員会(取締役選解任の議案内容を決定する委員会),監査委員会(執行役等の職務執行の監督等を行う委員会),報酬委員会(執行役等の個人別の報酬内容を決定する委員会)の3つの委員会を取締役会の中に置く会社である。


取締役会の中に委員会を置くスタイルの会社は,平成14年の商法改正の際に法定された。

それ以前にも,取締役ではない「執行役員」という肩書をもって業務執行を司る事実上の機関を置く会社は存在しており,この「執行役員」の業務執行を監督するために「委員会」を取締役会の中に設置する企業が,少数ながら存在した。

「委員会」を置いて業務執行者に対する監督の実効化を図るスタイルは,アメリカで早くから普及したものであり,理論的には「モニタリング・モデル」と呼ばれる。日本でも,ソニーのように国際的にビジネス展開を行う企業で,平成14年の法定化以前から委員会制度を社内に導入する企業があった。

「委員会」制度は,企業統治(コーポレートガバナンス)の強化の観点から,株式会社における機関設計の一つのオプションとして,平成14年以降,商法・会社法で法定された制度である。


指名委員会等設置会社においては,「取締役」には原則として業務執行権限がない(会社法415条)。そこで,指名委員会等設置会社には,業務執行者として「執行役」を置かなければならない(会社法402条1項)。指名委員会等設置会社における「取締役」は基本的に監督者としての役割を与えられる。「執行役」は取締役会の決議により選解任される(会社法402条2項,同法403条1項)。

このように,業務執行者(経営者)とこれを監督する者を分離して,業務執行に対する監督を強化する点に指名委員会等設置会社の特徴がある。この「経営と監督の分離」の実効性を確保する観点から,各委員会の構成員(定数各々3人以上)の過半数は「社外取締役」(会社法2条15号)であることが義務付けられている(会社法400条1項,同条3項)。


指名委員会等設置会社には1人又は2人以上の「執行役」を置かなければならないが,執行役が複数置かれた場合,取締役会は,会社を代表する者として「代表執行役」を選定しなければならない(会社法420条1項)。取締役会は代表執行役の解職権限も有する(会社法420条2項)。


記事で「社長」と表記されているが,これは会社法上の機関の呼称ではなく,車谷氏は法的には「代表執行役」である。なお,指名委員会等設置会社には「代表取締役」は存在しない。

上記のとおり,執行役の選解任権限及び代表執行役の選定解職権限を有するのは取締役会であるから,車谷氏は,代表執行役を辞任するために,取締役会において辞任の意思を表明する必要がある(法的には,執行役の辞任とは,民法上の委任契約の無理由解除(民法651条1項)であり,取締役会外でも会社に対する辞任の意思表明だけで辞任することは可能であるが,ただし相手方に不利な時期に無理由解除をすると原則として相手方に対し損害賠償責任を負うことになるので(民法651条2項),これを避けるためには取締役会に辞任の意思を表明して合意解約ないし取締役会から解任・解職されたという形式をとるのが望ましい。)。

車谷氏が代表権だけを返上するのか,あるいは執行役の職自体を辞するのかは,記事からは定かではないが,東芝買収を試みているCVCキャピタル・パートナーズとの利益相反関係も取り沙汰されており,会社内外からの強い批判を受けての辞任表明なので,執行役の職自体を辞するものと予想される。


ただ,車谷氏は,代表執行役と取締役を兼務しており,取締役の選解任権限は株主総会にあるから,取締役を辞任するには株主総会への報告が必要となる(これも法的には委任契約の無理由解除であるが,前述と同様の理由により株主総会への報告は必要と考える。)。

したがって,車谷氏は,次の株主総会までは東芝の取締役としての地位は失わないだろう。


ちなみに執行役と取締役の兼務は法律上許容されているが(会社法402条6項),これは経営と監督の分離という指名委員会等設置会社の制度趣旨に反するのではないかとも思われる。

しかし,現実問題としては,社外取締役該当性の要件がきわめて厳格であり,人材の調達が困難な会社においても指名委員会等設置会社の機関設計を導入できるようにするためには,かかる兼務を認めることもやむを得ない,というのが会社法402条6項の立法理由である。


会社の社長の交代劇は,特に珍しいことではなく,日常茶飯事であるが,東芝ほどの大企業になると,いやでも衆目を集めることになる。

法律家としては,社長の辞任の理由よりも,その会社がどのような会社であり,いかなる手続が必要になるか,という点が気になってしまう。

仮に車谷氏が辞任せず,CVCキャピタル・パートナーズによる買収が実現すると仮定した場合,利益相反取引(会社法356条1項2号3号・同法365条)に該当するのか否か。

利益相反取引に該当した場合には,取締役会への報告と取締役会の承認が必要になることetc.

こういうところが気になるのは,職業病なのかもしれない。