最近のニュースから【暴対法~使用者責任】

住吉会、特殊詐欺で被害金支払う 組トップに使用者責任 全国初


<記事抜粋>

「指定暴力団住吉会系組員らによる特殊詐欺の被害者の女性2人に対し、住吉会側が詐欺の被害金額と同額の500万円を支払っていたことが、関係者への取材で判明した。女性2人は暴力団対策法の代表者(使用者)責任の規定に基づき、住吉会トップに損害賠償を求めて提訴。訴訟の上告審で最高裁第1小法廷は組側の上告を棄却する決定を出し、組トップへの賠償命令が最高裁で初めて確定していた。こうした被害回復の実現は初めてとみられる。」



<所感>

最高裁は,特殊詐欺の事案で,暴力団トップに対する「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」(以下,「暴対法」という。)上の使用者責任規定の適用を認めた高裁の判断を支持した(最決令3.3.11・判例集未登載(令和3年4月15日現在))。

最高裁の上記決定により,組長の損害賠償義務が確定したことから,暴力団が,被害者に対して,騙取した金銭の全額を返還した。

暴力団が特殊詐欺の被害者に騙取金員を返還して被害回復が図られたのは,これが初めてと報じられている。


構成員の発砲による殺傷行為については,最高裁が17年前に民法715条に基づく使用者責任を暴力団トップに負わせる旨の判断をしていた(最判平16.11.12)。


 本件では,構成員自身が直接被害者に対して暴力行為や欺罔行為をしたわけではなく,「威力」を利用して受け子を集め,受け子らに詐欺をさせたことの最終責任を暴力団トップに追及できるかが争点となっていた。 

そこで,暴対法31条の2第2項柱書本文の「指定暴力団の代表者等は、当該指定暴力団の指定暴力団員が威力利用資金獲得行為(当該指定暴力団の威力を利用して生計の維持、財産の形成若しくは事業の遂行のための資金を得、又は当該資金を得るために必要な地位を得る行為をいう。以下この条において同じ。)を行うについて他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」という定めにおける「威力利用資金獲得行為」の解釈が問題となった。 


最高裁は,被害者に対して直接威力を用いなくても,「威力」を利用して受け子を勧誘し,詐欺を実行させることも同条の「威力利用資金獲得行為」に該当する旨判示したものと思われる。 


ちなみに,暴対法31条の3には「指定暴力団の代表者等の損害賠償の責任については、前二条の規定によるほか、民法(明治二十九年法律第八十九号)の規定による。」と定められているから,同法31条の2は,民法715条の特則という位置づけになる。