最近のニュースから【民法(家族法)~夫婦別姓制度訴訟】

海外で別姓婚した夫婦、国内でも「別姓」が認められる? 想田監督夫妻の訴訟があす判決


<記事抜粋>

「アメリカで別姓のまま法律婚したにもかかわらず、日本の戸籍に婚姻が記載されないのは、立法の不備があるなどとして、映画監督の想田和弘さんと舞踏家で映画プロデューサーの柏木規与子さん夫妻が、国を相手取り、合計20万円の損害賠償を求めた訴訟が4月21日、東京地裁で判決を迎える。」

「訴状などによると、想田さんと柏木さんは、米ニューヨーク州で1997年、夫婦別姓のまま法律婚した。海外で結婚する場合、婚姻届を提出しなくても、現地の法律に基づいておこなわれれば、国内でも婚姻は成立している(法の適用に関する通則法24条2項)。」

「想田さんらが求めているのは、次の点だ。 」

「・戸籍上、婚姻関係の証明が受けられる地位にあることの確認 

  ・国作成の証明書によって婚姻関係の証明を受けられる地位にあることの確認

  ・一人につき10万円の国家賠償」

「国はこれらに対し、想田さんらが夫婦を称する氏(姓)を定めていないため、夫婦同姓を義務付けた民法750条の要件を満たしておらず、「婚姻関係の証明を受ける地位にあるとはいえない」などと反論。そもそも婚姻が成立していないとして、争っている。」

「提訴後、複雑な法律論が続いていたが、1月に結審した際、争点は主に3点に絞られている。」

「  1)通則法が適用されることを前提に、ニューヨーク州の方式に従い婚姻した想田さんと柏木さんについて、婚姻が成立しているか。

  2)想田さんと柏木さんの婚姻が成立しているとして、戸籍に記載して、証明を受けることは可能か。そして、そのような証明を受ける地位にあることについて、この訴訟で確認判決を求めることはできるのか。 

  3)そのような確認判決を求めることができないとしても、結婚を保護しようとする憲法24条・女性差別撤廃条約16条2項にもとづき、婚姻について証明書の作成・交付ができるか。 また、婚姻が成立しているにもかかわらず、戸籍への記載がされず、証明手段が整備されていないことについて、憲法24条や国賠法1条1項に違反するのか。」



<所感>

法の適用に関する通則法(以下「法適用通則法」という。)第24条第2項は,「婚姻の方式は、婚姻挙行地の法による。」と定めている。

法適用通則法とは,国際結婚や国際的取引等の国際的私法関係において,どの国の法律をどのように適用するかについて定める法律である。


婚姻の成立要件は,婚姻意思(実質的に夫婦共同生活を営む意思)の合致と方式履践(日本国内では婚姻の届出)であるから,婚姻意思が合致しているカップルが婚姻挙行地の法に則って方式を履践すれば婚姻の成立を否定することはできないはずである。

したがって,想田氏・柏木氏間に婚姻が成立していることは自明の理であって,これを否定することはできないように思われる。


にもかかわらず,国が,想田氏と柏木氏が法律上の夫婦ではないと主張する根拠は,法適用通則法第25条の「婚姻の効力は、夫婦の本国法が同一であるときはその法によ」るという規定にあるものと推測される。

我が国の民法第739条第1項の「婚姻は,戸籍法……(中略)……の定めるところにより届け出ることによって,その効力を生ずる。」という規定は,単に効力発生要件を定めたものにとどまらず,婚姻の成立要件をも定めた規定であると解されており,日本国内における日本人間の婚姻は,婚姻届の受理によって成立し,かつ効力を発することになる。


日本において婚姻届が受理されるまでは日本人カップルの婚姻が成立しないということになると,法適用通則法第24条第2項は死文化する。すなわち,婚姻挙行地で方式履践しても,それだけでは日本法上の婚姻が成立しないという結論に至るが,そうするといかなる趣旨で同条項が設けられたかの説明ができない。


したがって,同条項を死文化しない解釈をとるためには,裁判所は,想田氏・柏木氏間の婚姻が成立しているという結論を導くべく,外国で婚姻を挙行した日本人カップルについて婚姻成立時期と婚姻効力発生時期を異ならせるように日本民法第739条第1項を再解釈しなければならないだろう。


仮に一つ目の争点について,裁判所が,想田氏と柏木氏間の婚姻の成立を認めた場合に,日本国内でかかる別姓婚を選択したカップルを夫婦として公証する制度が存在しないという立法不作為の違憲性が問題となる。


この問題については,立法不作為の違憲性を争点とする国家賠償請求訴訟の提起が当然想定され,想田氏・柏木氏も国家賠償請求訴訟を提起している。


ただ,立法不作為の違憲性を争う国家賠償請求訴訟においては,一般に国会の立法不作為の違憲・違法性が認定されにくいという問題点と,合理的期間論によって違法主張が排斥される可能性があるという問題点,さらに,立法機関である国会の組織的過失の認定が困難であるという問題点があり,請求が認容される蓋然性が乏しいという難点がある。


そこで,想田氏・柏木氏は,海外で適法に別姓婚をした夫婦であることを日本国内で公証される法的地位を有することの確認請求もしている。

これは,講学上の「実質的当事者訴訟」(行政事件訴訟法第4条後段)である。


実質的当事者訴訟のうちの公法上の法律関係の確認を求める訴えについては,「確認の利益」を有することが訴訟要件として要求される。

確認の利益は,①問題となる法律関係を確認対象とすることが紛争解決のため必要かつ適切か(対象選択の適否),②手段として確認請求訴訟を選択することが必要かつ適切か(方法選択の適否),③原告の法的地位に危険や不安が現存し,これを解消するために確認判決を得ることが必要かつ適切か(即時確定の利益/紛争の成熟性)の3つの考慮要素に照らして判断される。


これを記事の事件についてみると,海外で婚姻を挙行して夫婦となった日本人カップルが,日本国内で夫婦として公証されないと,配偶者控除や相続等の点で,公証されている日本人夫婦と差別されることになるから,問題となる法律関係(海外で適法に別姓婚を挙行した日本人夫婦を日本国内で夫婦として公証してもらうという法的地位の存在)を確認対象とすることが,日本民法上の夫婦としての効力を認めてもらうために必要であり適切といえるので,①対象選択は適切である。


また,現行戸籍法上,別姓婚のカップルを戸籍に記載する様式が存在しない以上,戸籍に夫婦として記載することを義務付ける義務付け訴訟等の給付請求訴訟を選択することは不可能であるから,手段として確認請求訴訟を選択することは必要かつ適切であり,②方法選択も適切である。


さらに,現在海外で適法に別姓婚を挙行したとしても,日本国内では相変わらず夫婦として取り扱われないことにより,配偶者控除の利益は現に侵害されており,また,いついかなるときに夫婦の一方が死亡するか分からないから,相続不能の危険は常に現存しているというべきであって,③即時確定の利益(紛争の成熟性)も充たす。


以上より,確認の利益は認められることになる。


「海外で適法に別姓婚を挙行した日本人カップルが日本国内で法律上の夫婦と認められる法的地位を有すること」の確認が判決でなされたとすれば,政府は,このようなカップルを法律上の夫婦として公証する制度を整備する義務を負うことになる。

そうすれば,現在与党内でも議論が進められている選択的夫婦別姓制度の導入が,実現に向けて大きく前進することになる。


以前FBで,選択的夫婦別姓制度に反対する見解の根拠薄弱性について投稿したことがあるが,選択的夫婦別姓制度の導入は,夫婦同氏堅持派の人たちの権利を一切侵害していない,という識者の指摘はまったくもって至当である。

逆に,夫婦別姓制度の不採用は,姓を選択する自己決定権(憲法13条)や,姓を選択できないために日本国内での婚姻を断念している日本人カップルの婚姻の自由(憲法24条1項)を侵害し,事実婚選択者の相続権等を認めない現在の政府の取扱いによって法の下の平等(憲法14条1項)に違反する状態を招来している。


本日(令和3年4月21日)午後3時に東京地裁で判決が言い渡される。

判決理由に注目したい。