最近のニュースから【地方自治法~住民訴訟】

「芸人投稿はステマ」との京都市への訴え棄却 京都地裁


<記事抜粋>

「吉本興業所属の漫才コンビにツイッターで施策を発信してもらうことなどを条件に、京都市が同社に計420万円を支払ったのは違法だとして、市民団体が門川大作市長を相手取り、同社などに返還請求するよう求めた訴訟の判決が23日、京都地裁であった。増森珠美裁判長は、適法と判断し、訴えを棄却した。」



<所感>

京都市が,吉本興業所属の漫才コンビ「ミキ」に,ふるさと納税等の市の施策に関連して「京都最高ー♪みんなで京都を盛り上げましょう!!」などのツイッター投稿を依頼し,その対価として同コンビに100万円の報酬を支払ったこと等がステルスマーケティング(ステマ)にあたるとともに,上記ツイッター以外にも京都国際映画祭のPR活動を委託した対価として,京都市が吉本興業に対して合計420万円を支出したことが地方自治法上の効率性の原則(地方自治法2条14項)等の法令に違反することを理由に,原告(京都市民)が,京都市長を被告として,吉本興業に対し,420万円の返還を求めることを義務付けることを求める住民訴訟(地方自治法242条の2第1項4号)を提起したところ,ミキのツイッターはステマに当たらず,吉本興業への支出は効率性の原則等にも反しないとして,令和3年4月23日,京都地裁が住民訴訟における原告の請求を判決で棄却した。


本件の提訴の経緯については,京都新聞の記事(2020年6月19日付)が詳細かつ正確に報じているから,以下にリンクを貼っておく。


上掲京都新聞の記事に「住民監査請求」という言葉が出てくるので,住民監査請求について,まず説明する。


地方自治法242条1項は,

「普通地方公共団体の住民は,当該普通地方公共団体の長若しくは委員会若しくは委員又は当該普通地方公共団体の職員について,違法若しくは不当な公金の支出……(中略)……があると認めるときは,これらを証する書面を添え,監査委員に対し,監査を求め,当該行為を防止し……(中略)……,又は当該行為若しくは怠る事実によって当該普通地方公共団体の被った損害を補填するために必要な措置を講ずべきことを請求することができる。」

と規定する。

同条項の制度を「住民監査請求」という。


地方自治法は,住民監査請求前置主義(地方自治法242条の2第1項)を採っているため,地方公共団体の長等の財務会計行為等に不服がある者は,いきなり住民訴訟を提起することはできず,まず住民監査請求を行って違法性・不当性の是正を求めなければならない。


上掲京都新聞記事では「原告らは昨年12月に住民監査請求を行い、市監査委員から今年2月に棄却、一部却下されていた。」と報じられている。

このように,住民監査請求による是正が図られない場合に,後続の手続として用いられる争訟手続が住民訴訟(地方自治法242条の2)である。

ただし,住民訴訟では,訴訟提起の対象が「違法」な財務会計行為等に限定されており,「不当」な財務会計行為等は対象外である。


住民監査請求に対する監査の結果が示されてから,住民訴訟を提起するに当たり,出訴期間の制限が設けられている。

すなわち,地方自治法では「監査委員の監査の結果又は勧告に不服がある場合」は「当該監査の結果又は勧告の内容の通知があった日から30日以内」に住民訴訟を提起しなければならないと規定されている(地方自治法242条の2第2項1号)。

本件では,令和2年2月に監査請求棄却(一部却下)の判断がなされているから,この通知が監査請求人に到達してから30日以内の同年3月中の或る日に住民訴訟を提起したことが分かる。

この点,上掲京都新聞記事では,令和2年6月19日までに訴訟提起した旨報じているが,上記の出訴期間内に提起しなければ訴状自体受理されないことになるから,実際の提訴時期と報道との間に相当タイムラグがある。


さて,地方自治法242条の2第1項柱書は,

「普通地方公共団体の住民は,前条第1項の規定による請求(注:住民監査請求を指す。)をした場合において,同条第5項の規定による監査委員の監査の結果……(中略)……に不服があるとき……(中略)……は,裁判所に対し,同条第1項の請求に係る違法な行為又は怠る事実につき,訴えをもって次に掲げる請求をすることができる。」

と定め,同項4号本文は,

「当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方に損害賠償又は不当利得返還の請求をすることを当該普通地方公共団体の執行機関又は職員に対して求める請求。」

を住民訴訟の一類型として定めている。


本件では,京都市が吉本興業に420万円を支出した行為が「違法」であると考えた京都市民が,京都市長(これが「執行機関」(地方自治法242条の2第1項4号)に当たる。)を被告として,「吉本興業に対して420万円の不当利得返還請求をする。」という行為を義務付ける判決を求める住民訴訟が提起されており,その法的根拠が上記の地方自治法242条の2第1項4号である。


令和2年3月に本件の住民訴訟が提起され,京都地裁の判決がなされたのが令和3年4月23日であるから,提訴から第一審判決が出るまで1年以上が経過している。


見出しのヤフーニュース記事によると,

「判決は、同社のタレントが市長を表敬訪問し、市交通局のポスターに起用されていたことなどを挙げ「投稿が、広報活動の一環だったことは明らか」と指摘。消費者の合理的な判断を妨げる危険性が高い投稿とはいえない、と結論づけた。」

と報じられている。

この記事の文面からは,ミキのツイートはステマではなく景表法違反行為(不当表示)に当たらないことを理由として,住民訴訟を棄却したように読める。


ただ,上掲ヤフーニュース記事では,効率性の原則(地方自治法2条14項)違反の点に関する判示内容は明らかではない。


効率性の原則とは,

「地方公共団体は,その事務を処理するに当たっては,……(中略)……最小の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない。」(地方自治法2条14項)

という地方自治法上の原則である。


上掲京都新聞記事によると,京都市は,吉本の芸人のツイート1件当たり50万円を吉本興業に支払う契約になっていたらしい。

この契約内容が「最小の経費で最大の効果」を挙げるものとはいえないとして効率性原則違反が主張されていた。

なお,50万円を支払う対象となるツイートは,20万人以上のフォロワーがいる芸人のツイートに限るという条件が付いていたとも報じられており,上掲京都新聞記事によると,漫才コンビの一人のフォロワーが20万人に達していなかったことが契約不適合であることの違法性も主張されていたようである。


ヤフーニュース記事からはこれらの点についての裁判所の判断内容は判然としないが,京都地裁の結論が請求棄却であることから逆算して考えると,効率性原則違反の点も契約不適合の点もいずれも原告の主張が排斥されたものと思われる。


結局,京都地裁の判断は,吉本興業は京都市に420万円を返還する必要がないから,京都市長に不当利得返還請求を義務付けることができない,というものである。

控訴の意向に関する原告のコメントは,現時点(令和3年4月27日)では,まだ明らかではない。


なお,本件住民訴訟で裁判長をつとめた増森珠美裁判官は,児童扶養手当不支給訴訟で今年の4月16日に原告の請求を棄却する判決(京都地判令3.4.16)をした裁判官である。

裁判長の名前を見たとき,どこかで見た名前だな…と思ったが,確認してみて分かった。


児童扶養手当不支給訴訟については,このブログの令和3年4月20日付投稿で詳しく解説しているので読んでみてください。