最近のニュースから【民法~不法行為(わいせつ行為)】

ふかわりょうさんに賠償命令 イベントで「暴力的キス」 東京地裁


<記事抜粋>

「タレントの岡本夏生さんが、イベントのステージで同業のふかわりょうさんから強引にキスされるわいせつ行為を受けたとして損害賠償などを求めた訴訟の判決が27日、東京地裁であった。」

「男沢聡子裁判長はキスが「一方的かつ暴力的だった」と認め、請求通り1円の賠償を命じた。」

裁判所は,「キスは不法行為に該当するとし、ふかわさんは損害賠償として80万円を支払う義務を負うと判断。その一部として1円の支払いを命じた。」



<所感>

詳しいことは書けないが,同種事案で女性側の代理人として民事訴訟を提起したことがある者として,記事が目に止まった。


ふかわりょう(以下「ふかわ」という。)の行為態様については,2016年4月,約300人の観客が来集したイベント会場で「ふかわさんは上半身裸でステージに登場し、岡本さんを押し倒した上、3度にわたり強引にキスをするなどした」と報じられている。


ふかわは,岡本夏生(以下「岡本」という。)がキスについて黙示の承諾をしていた旨の抗弁を主張していたようである。


刑法上の論点に「被害者の承諾」というものがあり,判例・通説は,犯罪行為の被害者が当該行為について事前に承諾を与えていれば,違法性が阻却され,犯罪不成立となると解している(違法性阻却事由説)。

刑法上の被害者の承諾の法理は,民法上の不法行為にも適用される。


岡本は,当然ながら黙示の承諾を否認したようである。


ふかわは,自身も岡本もいずれも同じTV番組(ふかわがMCをつとめていた「5時に夢中」という東京MXTVの情報バラエティー番組。)で何度も共演している芸能人(ふかわはピン芸人,岡本は元RQのタレント。)であり,岡本が長年コミカルなキャラクターを売りにしてTV等に出演していることから,阿吽の呼吸で,上記キス行為程度の行為は許されるだろうと安易に考えていたものと思われる。

実際,ふかわは,「観客を笑わせるための芸として一般的だ」と主張し,黙示の承諾の存在を基礎づけようとしている。


しかし,ふかわの行為は,衆人環視のもとで行われた公開セクハラであり,芸人だから当然に許されるという域をはるかに超えてしまっている。

本件のキス行為の違法性が阻却されるためには,台本にキスのくだりに関する記載があり,当事者双方が演出内容を十分に理解し明確に承知したうえで,当該行為が行われることが必要であるが,本件では,台本にそのような記載はなく,被害者の事前の理解もなく承知もしていなかったことは明らかである。


仮に,台本にキスすることが書かれており,これを当事者双方が事前に理解し承知したうえで,女性タレントが嫌がっている演技をしながら男性芸人により最終的にキスされてしまう,というシナリオが存在する事案であれば,観衆が著しく不快に感じる可能性はきわめて高いとしても,当事者間ではキスに関する事前の承諾があると認定され,本件のような損害賠償請求が棄却される可能性がある。


私が記事の中で注目したのは,裁判所が,岡本の精神的損害を「80万円」と評価した点である。


事案の細部がかなり異なっているので,単純な比較はできないが,この金額に対する私の印象は,「裁判所が高く評価した」というものである。

誤解していただきたくないのは,「80万円」は過大な評価である,という印象を持ったわけではなく,単純に代理人として羨ましいという感想を持ったに過ぎない。

私が担当した事件では,具体的な金額は言えないが,「この女性の苦しみを裁判官は本当に分かっているのだろうか」という疑問を持つような評価だった。

ちなみに私が担当した事件では,最終的に和解で終結しているので,裁判官が心証開示した金額とは異なる金額で解決している。

もちろん,本件で「80万円」では全然足りないと感じる人もたくさんいるだろうし,そのような意見を否定するつもりは毛頭ない。

被害女性が納得のいく金額が支払われることが理想であるという点では,私は,上記意見と意見を同じくしていると考えている。


なお,記事の訴訟は,一部請求訴訟であり,訴額(請求金額)は「1円」と報じられている。

「1円」を請求してこれが全部認容されているため,原告(岡本)には控訴の利益がない。

したがって,被告(ふかわ)が控訴しない限り,記事の東京地裁判決が確定し,記事の事件に関し,岡本勝訴・ふかわ敗訴の結論が不動のものとなる。