重要土地等調査規制法について

久しぶりにブログ記事を投稿する。

今回は,ニュース記事を素材とするものではなく,本日(R3.6.16)未明に参議院本会議で可決,成立した「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律(「重要土地等調査規制法」。以下「本法」という。)」を取り上げる。


本法案の全文については,以下のリンクを参照していただきたい。

●重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律案

メインへスキップ第二〇四回閣第六二号   重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律案目次 第一章 総則(第一条-第三条) 第二章 基本方針(第四条) 第三章 注視区域(第五条-第十一条) 第四章 特別注視区域(第十二条・第十三条) 第五章 土地等利用状況審議会(第十四条-第二十条) 第六章 雑則(第二十一条-第二十四条) 第七章 罰則(第二十五条-第二十八条) 附則   第一章 総則 (目的)第一条 この法律は、重要施設の周辺の区域内及び国境離島等の区域内にある土地等が重要施設又は国境離島等の機能を阻害する行為の用に供されることを防止するため、基本方針の策定、注視区域及び特別注視区域の指定、注視区域内にある土地等の利用状況の調査、当該土地等の利用の規制、特別注視区域内にある土地等に係る契約の届出等の措置について定め、もって国民生活の基盤の維持並びに我が国の領海等の保全及び安全保障に寄与することを目的とする。 (定義等)第二条 この法律において「土地等」とは、土地及び建物をいう。2 この法律において「重要施設」とは、次に掲げる施設をいう。 一 自衛隊の施設並びに日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定第二条第一項の施設及び区域(第四項第一号において「防衛関係施設」という。) 二 海上保安庁の施設 三 国民生活に関連を有する施設であって、その機能を阻害する行為が行われた場合に国民の生命、身体又は財産に重大な被害が生ずるおそれがあると認められるもので政令で定めるもの(第四項第三号及び第十四条第二項第一号において「生活関連施設」という。)3 この法律において「国境離島等」とは、次に掲げる離島をいう。 一 領海及び接続水域に関する法律(昭和五十二年法律第三十号)第一条第一項の海域の限界を画する基礎となる基線(同法第二条第一項に規定する基線をいい、同項の直線基線の基点を含む。)を有する離島 二 前号に掲げるもののほか、有人国境離島地域の保全及び特定有人国境離島地域に係る地域社会の維持に関する特別措置法(平成二十八年法律第三十三号)第二条第一項に規定する有人国境離島地域を構成する離島(第五項第二号において「有人国境離島地域離島」という。)4 この法律

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本法の内容を要約すると,防衛関係施設,海上保安庁施設,生活関連施設の周辺約1000メートルの範囲内にある土地建物の利用を規制するものである。


本法の問題点として,日本弁護士連合会(日弁連)は,本法可決前の法案段階から以下の5点を挙げている。


1 「本法案における「重要施設」の中には、自衛隊等の施設以外に生活関連施設が含まれているが、その指定は政令に委ねられている。しかも、生活関連施設として指定されるためには、当該施設の「機能を阻害する行為が行われた場合に国民の生命、身体又は財産に重大な被害が生ずるおそれがあると認められる」ことが必要とされているが、この要件自体が曖昧であり、恣意的な解釈による広範な指定がなされるおそれがある。」


2 「本法案では、地方公共団体の長等に対し、注視区域内の土地等の利用者等に関する情報の提供を求めることができるとされているが、その範囲も政令に委ねられている。そのため、政府は、注視区域内の土地等の利用者等の思想・良心や表現行為に関わる情報も含めて、広範な個人情報を、本人の知らないうちに取得することが可能となり、思想・良心の自由、表現の自由、プライバシー権などを侵害する危険性がある。」


3 「本法案では、注視区域内の土地等の利用者等に対して、当該土地等の利用に関し報告又は資料の提出を求めることができ、それを拒否した場合には、罰金を科すことができるとされている。そこでは、求められる報告又は資料に関して何の制限もないことから、思想・良心を探知されるおそれのある事項も含まれ得る。このような事項に関して、刑罰の威嚇の下に、注視区域内の土地等の利用者等に対して、報告又は資料提出義務を課すことは、思想・良心の自由、表現の自由、プライバシー権などを侵害する危険性がある。」


4 「本法案では、内閣総理大臣が、注視区域内の土地等の利用者が自らの土地等を、重要施設等の「機能を阻害する行為」に供し又は供する明らかなおそれがあると認めるときに、刑罰の威嚇の下、勧告及び命令により当該土地等の利用を制限することができるとされている。しかし、「機能を阻害する行為」や「供する明らかなおそれ」というような曖昧な要件の下で利用を制限することは、注視区域内の土地等の利用者の財産権を侵害する危険性がある。」


5 「本法案では、特別注視区域内の一定面積以上の土地等の売買等契約について、内閣総理大臣への届出を義務付け、違反には刑罰を科すものとされているが、これも過度の規制による財産権の侵害につながるおそれがある。」


日弁連が危惧しているのは,本法に基づく調査・規制が,憲法13条違反(プライバシー権侵害・不当な個人情報取得収集),憲法19条違反(思想信条の露顕のおそれ),憲法21条1項違反(表現活動に対する弾圧),憲法29条1項2項違反(財産権侵害),憲法31条違反(明確性の原則違反)に抵触する点である。


政府が想定する同法の適用事例は,たとえば自衛隊基地周辺土地(本法では「注視区域」又は「特別注視区域」という。)を外国企業が購入する場合における安全保障上のリスクを避けるため,当該土地の利用目的等の事前届出を義務づけるというものである。


しかし,日弁連の指摘にあるように,必ずしも売買が予定されていなくても,「注視区域」内の土地等所有者に対する,センシティブ情報を含む個人情報の調査は可能である。また,「注視区域」ないし「特別注視区域」内の土地等において,防衛関係施設等の「機能を阻害する行為」は,当該土地等の売買の有無にかかわらず罰則を伴う規制対象とされている。


すなわち,既に防衛関係施設等の周辺に土地を所有しており,基地の廃止・移転を求める政治運動を現に行っている人も本法の規制対象とされる可能性がある。


意図的に隠しているのかどうかは定かでないが,本法の趣旨自体漠然としているため,国民も本法のどこに問題があるのかがよく分からないまま,世論が正常に形成されていない感がある。


本法が思想弾圧・表現活動の統制のため濫用されないように引き続き注目する必要がある。