事例研究(行政手続法上の聴聞) 2022/06/14

【知床観光船、聴聞を実施 社長ら姿見せず 事業許可取り消し判断】~毎日新聞


<記事抜粋>

北海道・知床半島沖で観光船「KAZU Ⅰ(カズワン)」が沈没した事故で、国土交通省北海道運輸局は14日、事業許可取り消し処分の手続きをしている運航会社「知床遊覧船」(北海道斜里町)への聴聞を札幌市内で実施した。

知床遊覧船の主張を確認するためで、桂田精一社長(58)ら同社側の出席はなかったが、事前に陳述書が提出された。

陳述書の内容を踏まえ、北海道運輸局は処分内容を正式に決める。

事業許可取り消しは海上運送法に基づく行政処分で最も重く、過去に事故に関連して出されたことはない。


<争点>

行政手続法上の聴聞


<所感>

行政手続法13条1項柱書は「行政庁は、不利益処分をしようとする場合には、次の各号の区分に従い、この章の定めるところにより、当該不利益処分の名あて人となるべき者について、当該各号に定める意見陳述のための手続を執らなければならない。」と定め、同項1号イは「許認可等を取り消す不利益処分をしようとするとき」には「聴聞」の手続を執らなければならないとしている。

聴聞とは、許認可の取消しなどの重大な不利益処分を行う前に、当該処分の相手方に対して、口頭で意見を述べる機会を与える手続である。

そもそも行政手続法とは、国民の権利利益を保護するため、行政処分等の事前手続の公正確保と透明性向上を図るためのルールを定めた法律である。

知床遊覧船は、13人以上の旅客を乗せることができる遊覧船を用いて海上旅客運送事業を営んでいたものであるから、旅客不定期航路事業の許可(海上運送法(以下、単に「法」という。)21条1項)を受けていたはずであるが、船舶航行の安全確保の措置を怠ったことにより本件事故を惹起したことを理由として当該事業の許可の取消し(法23条・16条)がなされることが予定されている。

なお、許可権者及び取消権者は運輸局長であり、この運輸局長のように行政処分をする権限を有する公務員を「行政庁」という。

上記の旅客不定期航路事業許可取消処分を行う前の事前手続として、記事の「聴聞」手続が執られたのである。

聴聞は、かみ砕いて言うと、許認可を取り消されそうになっている事業者の言い分を処分前にあらかじめ行政庁(正確には行政庁が指名した職員(これを「主宰者」(行政手続法19条1項)という。))が聞いておく手続である。

上述のとおり、聴聞は本来、口頭で処分対象者(処分の名あて人=当事者)の意見を言わせる手続であるから、期日と場所を定めて当事者を出頭させて実施するのが原則である(行政手続法15条1項、同法20条2項)。

しかし、当事者は、聴聞の期日に出頭することなく、意見を記載した書面(これを「陳述書」という。)を提出して、口頭での意見陳述に代えることが可能である(行政手続法21条1項)。

知床遊覧船の代表者が聴聞期日に出頭せず、陳述書を提出したのは、上記の行政手続法21条1項の規定に基づく行為である。

ところで、知床遊覧船は、事故の原因をすべて事業者に帰責するのは誤りである旨の意見・反論を提出しているようだが、北海道運輸局長は聴聞の審理結果をふまえていかなる処分を下すのだろうか。

知床遊覧船が陳述書だけでなく証拠書類(行政手続法21条1項)を提出しているか否かは記事からは明らかではなく、どの程度説得的な反論がなされているかも不明である。

運輸局長の最終的な意思決定を待つことにしよう。

※本記事執筆後、運輸局長は終局処分として、事業許可取消処分をしたと報じられている。