事例研究(ツイート削除請求) 2022/06/24

【ツイッターの逮捕歴に関する投稿 最高裁が削除命じる初の判決】~NHK


<記事抜粋>

ツイッターで過去に投稿された自分の逮捕歴が閲覧できる状態になっていて、就職活動に支障が出たなどとして、男性がツイッター社に削除を求めた裁判で、最高裁判所は「逮捕から時間がたっていて公益性は小さくなっている」などとして、今回のケースはプライバシーの保護が優先すると判断し、削除を命じる判決を言い渡しました。

2012年に建造物侵入の疑いで逮捕された男性は、略式命令を受けて罰金10万円を納めましたが、その後もツイッターで名前や容疑が分かる逮捕時の報道を引用した投稿が閲覧できる状態になっていて、就職活動に支障が出たなどとしてツイッター社に削除を求めました。


<争点>

ツイート削除請求認容の要件


<所感>

最高裁は、2017年、インターネット上で流通している情報について、「情報を社会に提供する自由」よりも「プライバシーの保護」が明らかに優先される場合には、削除の対象となる旨判示していた。

情報を社会に提供する自由は、表現の自由の一内容として憲法21条1項で保障されている。

他方、前科前歴のように、不特定多数の人になるべく知られたくないセンシティヴな個人情報については、プライバシー情報として、憲法13条により相当高度の保護が図られなければならない。

表現の自由も、プライバシー権も、いずれもきわめて重要な人権であって、これらの人権が対立する典型的な場面が、刑事事件の報道の場面である。

刑事事件は、犯罪の重大性にもよるが、一般的に言って社会公共の関心事であり、その報道は公益目的で行われる限りにおいて許容される。

しかし、いったんインターネット上で特定の個人の犯罪歴が暴露され、拡散されてしまうと、その人のプライバシーは長期間にわたって侵害され続ける。

欧米では、インターネットの世界において「忘れられる権利(the right to be forgotten)」という新しい権利概念が議論されている(EUでは「消去権(the right to erase)」として既に実定法化されている。)。

最高裁第二小法廷で草野裁判長が「逮捕から時間がたっていて公益性は小さくなっている」ということを、プライバシー優先の理由の一つに挙げたのは、このような文脈によるものだと思われる。

判決文を仔細に検討したわけではないが、表現の自由 vs プライバシーの利益衡量(ad hoc balancing)を行うに当たり、生の事実(bare fact)をただ突き合わせて比較するのではなく、一定の考慮要素を挙げつつ、これに照らして利益衡量をおこない、その結論として、プライバシーを優先させるに至ったのだろう。

逮捕からどのくらい時間が経過したか、被告事実(犯罪事実)の重大性、古い事件をインターネット上で再び話題にすることの社会的意義、事件自体の歴史的意義、時間の経過による公益性の低下の程度etcを総合考慮して判断した、といったところだろうか。

※以上はあくまでも本記事執筆当時における判決内容の推測であり、日高の個人的見解に過ぎない。その後、本件最高裁判決を確認したところ、最高裁は削除の判断基準につき「上告人が、本件各ツイートにより上告人のプライバシーが侵害されたとして、……被上告人に対し、人格権に基づき、本件各ツイートの削除を求めることができるか否かは、本件事実の性質及び内容、本件各ツイートによって本件事実が伝達される範囲と上告人が被る具体的被害の程度、上告人の社会的地位や影響力、本件各ツイートの目的や意義、本件各ツイートがされた時の社会的状況とその後の変化など、上告人の本件事実を公表されない法的利益と本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので、その結果、上告人の本件事実を公表されない法的利益が本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に優越する場合には、本件各ツイートの削除を求めることができるものと解するのが相当である。」と述べている。また、最高裁は、本件各ツイートの性質(速報性を重視するという性質)も考慮要素としている。