事例研究(控訴審における弁護人解任) 2022/07/15

【工藤会最高幹部らが弁護人全員を解任 昨年死刑と無期懲役の一審判決】~朝日新聞デジタル


<記事抜粋>

4件の市民襲撃事件で殺人罪などに問われ、一審の福岡地裁で死刑判決を受けた特定危険指定暴力団・工藤会のトップで総裁の野村悟被告(75)と、無期懲役を言い渡されたナンバー2で会長の田上不美夫被告(66)が、弁護人全員を解任していたことがわかった。

両被告ともに昨年8月の一審判決後に控訴し、今月末に控訴の理由を述べる書類の提出期限を控えている。

弁護人の交代によって、手続きに遅れが生じて控訴審の予定にも影響が出る可能性がある。


<争点>

控訴審における弁護人解任


<所感>

暴力団トップに限らず、構成員、準構成員、元構成員等もこういう弁護戦略を採ることは珍しくない。

あまり具体的なことは言えないが、私も私選弁護で、一度ほぼ同じ体験をしている。

第一審を担当し、被告人は一審判決に不服はなかったものの、何故か赤落ち(注:判決が言い渡された後、上訴で争わずに判決確定をまって刑に服することを表す実務上の俗語。)せず控訴したので、拘置所で接見した後、サービス(※第一審の着手金しか受領しておらず、報酬金も、控訴審着手金もまだ受領していなかったので、完全に無料奉仕だった。)のつもりで控訴審の弁選をとって控訴趣意書を提出したのに、その直後に解任された、という経験である。

結局、第一審の報酬金は支払われないままで委任関係が終了し、その後の被告人の処遇は不明のままである。

本人いわく、実刑は覚悟しつつも保釈でシャバに出たかった、先生の保釈請求はとおらなかったから、他の弁護士に頼みたい、ということだが、客観的に保釈請求がとおる見込みはなく、しかも保釈保証金調達のあてもない、という状況だったので、一応説得しようと試みたが説得できなかった。

もちろん一審段階で保釈請求は何度もしたが、すべて裁判所から撥ねられていた。

別の同種国選弁護事件では、被告人は、一回保釈請求が撥ねられた後、「もう一回請求しますか」と意向確認したら、「(お金もないし、これ以上他人に迷惑をかけられないから)もういいです。」とあっさり保釈を諦めてくれた。

実際、その被告人の親族について保釈支援協会の保釈保証金貸付の審査がとおらなかったという事情もあり、被告人の属性(現役の暴力団構成員)にかんがみると保釈の許可が下りる可能性が低い事案だったので、一回の却下であっさり諦めてくれた潔さに、一抹の侠気を感じた(念のため、暴力団構成員を称揚しているわけではないので、誤解しないように。)。

記事の野村被告人は、第一審で死刑判決を受けているから、保釈うんぬんではなく、単純に刑の確定を引き延ばすための戦略としての控訴審弁護人解任であることは明らかだが、こうして重大事件の裁判は長期化していく。