事例研究(離婚後共同親権制) 2022/07/22

【離婚後の親権は?「共同親権」選べる案】~news zero on Twitter


<記事引用>


離婚した後、日本では父か母のどちらかが親権をもつ「単独親権」制ですが、 法制審議会は双方に親権を認める「共同親権」を選べる案を中間試案に盛り込む方針です。ただ、共同親権にも課題があるようです。


<争点>

離婚後共同親権制


<所感>


この「共同親権か単独親権か」という問題は、未成熟子がいる夫婦間の離婚に関して、日本で長く議論されてきた問題であり、私自身もこの問題に直面することがしばしばある。

木村草太東京都立大教授が指摘するように、マスコミは、親権と監護権の区別を理解していないと思われる節があり、「単独親権者=単独監護権者」という固定観念がマスコミだけではなく一般人の間でも定着してしまっているのではないかという懸念がある。

たしかに、単独監護権者が単独親権を取得する方が合理的な場合も多いため(例:子ども名義での銀行預金口座の開設を法定代理人として行う場合など)、離婚実務の運用上は、事実上「単独親権者=単独監護権者」という図式が出来上がってしまっている。

しかし、現行法下でも、親権と監護権を分離すること自体は不可能ではない。

共同親権制の難点は、相親権者の同意が得られないと未成熟子の財産管理行為に関して何も決定できなくなる点にある。

離婚していない夫婦間であれば、相親権者の黙示的同意が擬制される場合がほとんどであり、一方親権者が勝手に財産管理行為をした(例:私立小学校の入学を決めてその入学金・授業料の支払義務を負わせること。)としても、他方親権者がそれを争うことは皆無とまでは言えないとしても比較的少ないだろう。

しかるに離婚後の夫婦に仮に共同親権を持たせるとすると、未成熟子を私立小中学校に通わせるにしても、相当紛糾することが容易に予想できる。

面会交流の問題点もしばしば指摘される。

共同親権を導入すれば面会交流も円滑化されるのではないかと期待される一方で、結局親同士が反目して喧嘩別れしている以上、単独で監護している親が事実上面会交流拒否することが容易にできてしまうという現状を変えることは、共同親権制度の導入だけで可能になるかは相当疑問の余地がある。

そのような意味において、私は木村教授の主張にも合理性があると考えている。

要は、離婚を実現して、単独親権・単独監護権を取得した親は、いったん離婚が成立してしまうと、元配偶者に対して連絡をとること自体億劫になり、あるいはそもそも連絡自体とりたくないという感情的な理由から、子どもに対しても「あんなお父さん(お母さん)とは会いたくないよね。」と吹き込んで面会交流を実施しないように仕向けて行く、ということが残念ながら厳然たる事実として存在する。

しかしこのような現状は、面会交流権が単に親が子に会いたいという欲求を満たすためだけのものではなく、未成熟子の福祉の観点から子の利益のためにも重要な権利であることに鑑みると、やはり正常な在り方とは言い難く、このような現状を打破する努力をやめてはいけないとも考えている。

そこで、単独親権制か選択的共同親権制かの二者択一ではなく、折衷的な制度設計として、「単独親権と単独監護権の選択的分離制と、選択的共同親権制の併用制」を提案する。

つまり、選択肢としては、①一方の親が単独親権・単独監護権を有するという現状どおりのスタイル、②一方の親が単独親権を有し他方の親が単独監護権を有するという親権監護権分離のスタイル、③親同士に葛藤が少なく離婚後も共同親権行使が可能であるような関係がある場合における共同親権選択(監護は単独で行う)のスタイル、の三つの選択肢を用意する。

②の選択肢を選択すれば、監護親は、子の財産管理に関し、必ず親権者親に相談しなければならず、たとえば勝手に私立学校に入れる契約をした後で、「入学金と初年度授業料で〇〇万円かかるから今月中に払ってください。」と唐突に請求してきてトラブルになる事態を避けることができるはずである。

本来は、単独親権者かつ単独監護権者である親が、特別出費があるたびにその都度きちんと非監護親に相談・協議して、納得させたうえで臨時の養育費として私立学校の入学金等を負担してもらう、というプロセスを経るべきであるのに、それがほとんどの離婚事案で実現できていないのが実情である。

親権と監護権が分離していれば、不便なこともある一方で、親権者親の面会交流が比較的容易に認められやすくなるというメリットもある。

法定代理権の行使自体は必ずしも同居生活して面倒見なければ絶対にできないという性質のものではないが、法定代理権の行使に当たり監護権者親との協議や、子どもとの接触による状況・意向の確認は欠かせないから、まったく面会交流を経ずに法定代理権を行使することは望ましくない。

そのような意味において、親権と監護権の分離により、かえって面会交流が促進されると考えられる。

単独親権・単独監護権を既に取得しているいわば既得権者は、「共同親権」の導入に相当抵抗することだろう。

他方、「共同親権」を原則とすべきとする論者は、仮に共同親権制が実現しても現状が大きく変わらないことに失望する可能性が高い。

共同親権≠共同監護ということを意識しておかないと、法律だけが変わっても実態はそのままということは容易に予測できる。

共同親権制導入論者が、仮に「共同親権=共同監護」と考えているのであれば、そもそも何故離婚した(する)のか?という反対論者からの質問に丁寧に答えなければならなくなるだろう。

やはり離婚後の子の監護については、一方の親の負担が大きくなることは覚悟のうえで単独監護が原則となるものと思われる。

法改正は国民のコンセンサスに基づいて行われるべきであるところ、いまだ「離婚後共同親権=離婚後共同監護」という国民の意識は醸成されていない以上、いずれかの親の単独監護に委ねざるを得ないのではないだろうか。

現在の養育費制度は、そもそも単独監護であることを前提として、非監護親も負うべき扶養義務を経済的に実現させるための手段として設けられたものであるはずである。

現在の非監護親が、親権も監護権も持たないため、扶養義務者としての自覚を希薄にしか有していない現状を変更するために、非監護親も「親権」を持っている以上、子の福祉のために最適な措置は何かを真摯に考え、他方の親と協議をしなければならないことを意識させる選択肢が必要である。

仮に非監護親が単独親権者になったとしても、現行法上は利益相反行為制度(民法826条)の歯止めがあるから、子の財産を食い物にする危険性は乏しいといえる。

濫用的な法定代理権行使については、民法107条で対処すればよい。

なお、上記②の選択肢が仮に実現した場合には、民法714条1項本文を改正し、非監護親である親権者に連帯責任を負わせることも検討に値する。