コンメンタール行政法(行政事件訴訟法)①(2023/11/20)

*主要七法(憲法、行政法、民法、刑法、商法・会社法、民事訴訟法、刑事訴訟法)について、重要な条文を挙げて、その解釈論を紹介します。判例がある場合には判例も適宜紹介します。コンセプトは、弁護士・資格予備校講師がお送りする5分で読める法律講義。


コンメンタール行政法では、当面行政事件訴訟法を扱います。


【条文】

行政事件訴訟法第1条

「行政事件訴訟については、他の法律に特別の定めがある場合を除くほか、この法律の定めるところによる。」

同法第7条

「行政事件訴訟に関し、この法律に定めがない事項については、民事訴訟の例による。」


【解説】

行政事件訴訟法(以下、「本法」という。)第1条は、本法が行政事件訴訟手続に関する一般法であることを定めたものです。

しかし、他の訴訟法をみると、民事訴訟法は405箇条、刑事訴訟法は507箇条あるのに対し、本法は46箇条しかありません。

本法の条文数が少ない理由は、本法制定の沿革に由来します。

第二次世界大戦前に存在していた行政裁判法は日本国憲法の法体系(司法裁判所による行政裁判の実施、三審制など)に合致しないことから憲法施行後まもなく廃止されました。

そして行政裁判法に代わる行政事件訴訟の手続法が必要となったことから、暫定的な立法措置として民事訴訟法の特別法である「行政事件訴訟特例法」が制定(昭和23年7月1日)されました。

ただ、新憲法のもとでは司法裁判所(通常裁判所)が行政事件を扱うといっても、民事事件と行政事件の間には本質的な差異もあります(例:行政事件では一方当事者(被告)は国家となるため、民事訴訟法上の当事者対等原則がそのまま妥当しない点)。

そこで本格的な行政事件訴訟手続の立法を行うまでのつなぎの措置として急造された法律が行政事件訴訟特例法(以下「特例法」という。)です。

特例法はわずか12箇条しかなく、急造、暫定という形容が的確にあてはまる法律です。

ちなみに特例法の1条は特例法が民事訴訟法の特別法であることを明記しておりましたが、現行の行政事件訴訟法第1条は上掲のとおり、行政事件訴訟手続の一般法であることの宣言規定となっています。

このような制定沿革に照らすと、本法の第1条は、行政事件訴訟手続の法律が民事訴訟法の特別法という地位から脱却したことを表す「独立宣言」と評価することができます。

ただし実際の運用上は民事訴訟の規定を大幅に準用しても行政訴訟手続に支障はなく、十分に機能していたため、「民事訴訟の例による」という包括的準用規定が本法第7条に定められました。

たとえば民事訴訟上の基本原理である処分権主義、弁論主義は、原則として行政訴訟にも妥当するものと解されています。

また、たとえば不当労働行為事件における労働委員会の救済命令を対象として争う取消訴訟は行政事件訴訟(抗告訴訟)に当たるので、救済命令の取消しにつき利害関係を有する労働組合の代表者を申立てにより又は職権で訴訟参加(本法23条1項)させることも可能ですが、実務的には民事訴訟法42条に基づく補助参加をさせることがあります(両制度の違いは主に参加人がした訴訟行為の効力の拘束力の強さの違いにあります。)。

民事訴訟法と行政事件訴訟法は以上に述べたような関係に立っています。

結論として、行政事件訴訟法は行政事件訴訟手続の特性をふまえた一般法であると言えますが、他方、民事訴訟法の規定が大幅に包括的に準用されるため、本法を真に理解するうえで民事訴訟法の理解が前提となっていると言っても過言ではありません。

行政事件訴訟法が出題される資格試験(司法試験、予備試験、公務員試験、行政書士試験)を受験する方は、行政事件訴訟法を単独で学習するのではなく、民事訴訟法をある程度理解したうえで行政事件訴訟法を読んだ方が理解が深まる、ということを肝に銘じておきましょう。