コンメンタール民事訴訟法①(2023/12/04)

*主要七法(憲法、行政法、民法、刑法、商法・会社法、民事訴訟法、刑事訴訟法)について、重要な条文を挙げて、その解釈論を紹介します。判例がある場合には判例も適宜紹介します。コンセプトは、弁護士・資格予備校講師がお送りする5分で読める法律講義。


【条文】

(普通裁判籍による管轄)

民事訴訟法第4条第1項

「訴えは、被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所の管轄に属する。」


(財産権上の訴え等についての管轄)

同法第5条第1号

「次の各号に掲げる訴えは、それぞれ当該各号に定める地を管轄する裁判所に提起することができる。

一 財産権上の訴え 義務履行地」


(裁判権)

裁判所法第33条第1項第1号

「簡易裁判所は、次の事項について第一審の裁判権を有する。

一 訴訟の目的の価額が140万円を超えない請求(行政事件訴訟に係る請求を除く。)」


【解説】

まず、次の問題を考えてみてください。


<問題>

あなたが、友達(以下「A」という。)に100万円を貸していたとして、約束の期日を過ぎてもAが100万円を返済してくれないので、Aを被告(=民事訴訟で訴えられた人)として貸金返還請求訴訟を提起しようと考えているとします。

また、訴訟提起を予定している時点で、あなたは東京都中野区に住んでいますが、Aは福岡県福岡市に住んでいるとします。

この場合において、あなたはどこで、どの裁判所に対して訴訟を提起すべきでしょうか。

考えられる裁判所をすべて挙げてください。


<解答>

東京簡易裁判所、福岡簡易裁判所


<解説>

上記の問題を考える前提として「管轄」という言葉を説明しておきます。

管轄とは、裁判所間における事件の分担のことです。

裁判所は、その管轄に属さない事件を取り扱うことができません。


民事訴訟の管轄については、民事訴訟法と裁判所法が定めを置いています。


民事訴訟法(以下「法」という。)は、訴訟提起の場所に関する管轄を定めており、これを「土地管轄」といいます。

原則的な土地管轄の基準地は「被告の普通裁判籍の所在地」です(法4条1項)。

「被告の普通裁判籍」は原則として被告の「住所」により決定されます(同条2項)。

法が被告の住所地を原則的な土地管轄基準地とした趣旨は、被告の便宜のためです。

すなわち、訴状の送達を受けた被告は応訴しない限り敗訴してしまう(=請求認容判決を受ける)という意味において事実上応訴を余儀なくされることになるため、当事者対等の原則を確保する観点から、被告が応訴しやすい裁判所をもって原則的管轄とすべきである、という法の配慮によるものです。

砕けた表現で言うと、お金に困っている被告が交通費等をかけて遠方の裁判所に出廷しなければならないとすると被告が可哀そうだ、という趣旨から法4条1項が設けられたと理解して差し支えありません。


他方、法は、例外的な土地管轄基準地を多数設けています。

例外を設ける趣旨はさまざまですが、例外の一つに「財産権上の訴え」に関して「義務履行地」を管轄する裁判所で訴えを提起してもよい、とする定めがあります(法5条1号)。

法5条1号の趣旨は、本来債務者(=被告)はその債務を履行すべき地に赴いて債務を履行しなければならない以上、義務履行地を基準地とする土地管轄に服することとしてもあながち不当とはいえない、というものです。

結局、法5条1号は債権者の便宜の観点も踏まえ、金銭債権の請求に係る訴訟については債権者(=原告)の住所地において訴えを提起することを認めていることになります。

というのも、金銭債権の義務履行地は特約がない限り「債権者の現在の住所」(民法484条1項後段)となるため、金銭債権の請求に係る訴訟については通常は債権者の住所地を管轄する裁判所に土地管轄があるということになるからです。


これを上記の問題についてみると、原則的な土地管轄はAの住所地である福岡の裁判所にありますが、例外的な土地管轄があなたの住所地である東京の裁判所にもある、ということになります。


ところで我が国では三審制という司法制度が採用されており、民事訴訟については、<①地方裁判所⇒②高等裁判所⇒③最高裁判所>というルートまたは<①簡易裁判所⇒②地方裁判所⇒③高等裁判所>というルートを辿ることが可能です。


ここで審級管轄・事物管轄という管轄にも留意する必要があります。

審級管轄とは、最初に訴えを提起すべき裁判所(=第一審裁判所)を決定する管轄です。

事物管轄は、審級管轄が正しいことを前提として、さらに請求額の多寡・事件(訴訟物)の種類により第一審の裁判所としてどの裁判所に提起するかを決定する管轄です。


第一審の事物管轄については、裁判所法に定めがあります。

裁判所法33条1項1号は、民事訴訟の第一審の事物管轄を有する裁判所について、「訴訟の目的の価額が140万円を超えない請求」を訴訟物(=裁判所における審判の対象)とする民事訴訟の第一審裁判所を「簡易裁判所」と定めています。


上記の問題についてみると、あなたがAに貸した金額は100万円だから、訴訟物は「金銭消費貸借契約に基づく貸金返還請求権」であり、その価額は140万円を超えない金額であることから、第一審の事物管轄を有する裁判所は「簡易裁判所」となります。


以上を総合して考えると、あなたがAに対して訴訟提起をする際に選択すべき裁判所は、「福岡簡易裁判所」または「東京簡易裁判所」ということになります。

あなたは東京に住んでいるので、おそらくは自分に有利な裁判所すなわち東京簡易裁判所で訴えを提起することでしょう。


上記の問題はもちろん架空の事例ですが、実際頻繁に起こりうる典型的な事案です。

貸金に関するトラブルでお困りの方は是非最寄りの弁護士にご相談ください。

東京にお住いの方は是非弊所にお問い合わせください。