コンメンタール刑事訴訟法①(2023/12/06)

*主要七法(憲法、行政法、民法、刑法、商法・会社法、民事訴訟法、刑事訴訟法)について、重要な条文を挙げて、その解釈論を紹介します。判例がある場合には判例も適宜紹介します。コンセプトは、弁護士・資格予備校講師がお送りする5分で読める法律講義。


【条文】

刑事訴訟法第285条

「1 拘留にあたる事件の被告人は、判決の宣告をする場合には、公判期日に出頭しなければならない。その他の場合には、裁判所は、被告人の出頭がその権利の保護のため重要でないと認めるときは、被告人に対し公判期日に出頭しないことを許すことができる。

2 長期3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円…(略)…を超える罰金に当たる事件の被告人は、第291条の手続(注:冒頭手続を指す。詳しくは解説参照。)をする場合及び判決の宣告をする場合には、公判期日に出頭しなければならない。その他の場合には、前項後段の例による。」


同法第286条

「前3条に規定する場合の外、被告人が公判期日に出頭しないときは、開廷することはできない。」


(暴行)

刑法第208条

「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。」


【解説】

刑事事件の裁判では、原則として被告人(=犯罪を犯したと疑われて刑事訴訟で起訴された人)は法廷に出頭しなければならないとされています(刑事訴訟法(以下、単に「法」という。)286条)。

法286条が被告人の在廷を必要とした趣旨は、被告人と検察官(=刑事訴訟を提起する権限を持つ国家公務員)が対等な当事者の関係にあるという建前から、一方当事者である被告人を公判(=刑事事件における審理)に立ち会わせて、主張立証の機会を十分に与えなければならないという適正手続保障(憲法31条)を確保する点にあります。

もっとも、被告人の中には、心身の不調等を理由に出廷を拒む人がいます。

仮に或る人(以下「A」という。)が暴行罪(刑法208条)の嫌疑で公訴提起(=刑事事件における起訴)されたとします。

Aは、捜査段階から一貫して黙秘しており、第1回公判期日の法廷でも口を閉ざしたままだったが、ただ最後に一言だけ「次回から出廷したくない。」と言ったとします。

この場合、第2回公判期日はAが在廷していなくても審理を進めることが可能です(ただし、判決宣告はできません。)。

なぜなら、法285条2項・同条1項後段が、冒頭手続(法291条)の期日と判決宣告期日を除き、被告人が在廷しないまま公判手続を進めることを許容しているからです。

暴行罪(刑法208条)の最高法定刑は懲役2年であり、同罪は「長期3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円…(略)…を超える罰金に当たる事件」(法285条2項前段)に該当することから、法285条2項・同条1項後段の規定の適用が可能となります。


冒頭手続(法291条)について簡単に説明します。

冒頭手続とは、第1回公判期日の冒頭で行われる一連の手続です。

第1回公判期日の冒頭では、次のような手続が執られます。


①人定質問(=被告人の氏名・生年月日・本籍・住所・職業を裁判官が確認する手続)

  ↓

②起訴状朗読(=検察官が起訴状記載の公訴事実と罰条の読み上げを行う手続)

  ↓

③権利告知(=裁判官が被告人に黙秘権の説明をする手続)

  ↓

④罪状認否(=被告人が公訴事実の認否をする手続)


以上の一連の手続が冒頭手続です。