司法試験予備試験の問題で人権について考える①:法の下の平等

(以下、令和5年司法試験予備試験短答式試験問題より引用)

第1問

法の下の平等に関する次のアからウまでの各記述について、最高裁判所の判例の趣旨に照らして、正しいものには○、誤っているものには×を付した場合の組合せを、後記1から8までの中から選びなさい。

ア.憲法第14条第1項前段の法の下の平等は法適用の平等を意味し、行政府と司法府を拘束するが、同項後段の「人種、信条、性別、社会的身分又は門地」による差別は歴史的に存在した特に不合理な差別として限定的に列挙されたものなので、行政府と司法府のみならず、立法府をも拘束する。

イ.憲法第94条で地方公共団体の条例制定権が認められていることに照らすと、地域によって条例による規制内容に差異が生じることは当然に予期されることであるから、ある行為の取締りのために各地方公共団体が各別に条例を制定する結果、その取扱いに差異が生じることがあっても地域差の故に違憲ということはできない。しかし、全国一律の規制になじむ行為を取り締まる場合には、法律で全国一律に規制しなければ、憲法第14条第1項に違反する。

ウ.選挙権に関しては、憲法第14条第1項に定める法の下の平等は、国民はすべて政治的価値において平等であるべきとする徹底した平等化を志向するもので、各選挙人の投票の価値の平等も憲法の要求するところであるから、両議院の議員一人当たりの人口が最大の選挙区と最小の選挙区との間で、一票の重みの較差がおおむね2対1以上に開いた場合、投票価値の平等の要請に正面から反し、違憲といわざるを得ない。


1.ア○ イ○ ウ○ 2.ア○ イ○ ウ× 3.ア○ イ× ウ○

4.ア○ イ× ウ× 5.ア× イ○ ウ○ 6.ア× イ○ ウ×

7.ア× イ× ウ○ 8.ア× イ× ウ×


【解説】

1 イントロダクション

憲法14条1項は「法の下の平等」を定めている。

同条項の文言は「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」である。

問題を考える前に前提となる知識を説明する。

まず、当たり前すぎて憲法の基本書や資格予備校テキストで説明されていないことを敢えて説明しておくと、「すべて国民は」とあるにもかかわらず本条項は日本国内にいる外国人にも適用される(性質説)。外国人の人権享有主体性に関する「性質説」と「文言説」のちがいについては別の機会に説明する予定である。

さて、「差別」という行為の主体は原則として公法人すなわち国又は公共団体(これは「地方公共団体」に限られない。たとえば独立行政法人も「公共団体」に含まれる。)である。

つまり、国家が人民に対して行う「差別」が本条項により禁止されている、と解されている。

私人間の差別的取扱いについては、私的自治の原則(民法521条等)の限界(民法90条等)に抵触するか否かの問題として処理されるため、たとえば公序良俗に反する内容の差別的契約に当たらない限り容認される。ただし、労働法制においては私的自治の原則が大幅に修正され、憲法14条1項の趣旨に反する不合理な差別的取扱いが禁じられている(労働基準法3条、4条参照)。


2 「法の下」の解釈

次に、「法の下」の解釈について説明する。

この文言の意味については、学説上の対立はほとんどなく、「法内容の平等」を指すと解されているが、その正しい意味を説明できる予備校講師は少ない。

まず、東大学派のように本文言における「法」を自然法と解した場合、憲法が定める人権規定は自然法を実定化したものであるから人権規定の支配下に服すべき全ての国家機関(※国会を含む。)が全人民を平等に取り扱わなければならない旨を定めたものと解することになる。

他方、京大学派その他の法実証主義的憲法解釈を前提としても、本条項の「法」を実定法たる「憲法」を指すものと縮小解釈することにより、立法機関たる国会も本条項に従わなければならないことになる。

さてそうすると記述アは「…法の下の平等は法適用の平等を意味し…」と書かれているところが明らかに誤りであると分かる。

ちなみに記述アに関して参照すべき最高裁判例は数多いが、一つだけ挙げておくと「尊属殺重罰規定違憲判決」(最大判昭48.4.4刑集27巻3号265頁)の判旨を参照しなければならない。ただし、本判決は「法の下」の解釈を正面から展開したものではなく、法内容平等説を前提として、14条1項後段列挙事項についての限定列挙説(最大判昭25.10.11参照)の見解を変更した判例であることに留意すべきである(つまり判旨をすみずみまで読んでも「法内容の平等を定めたものである」という明示的表現は現れないことに注意が必要である。)。


3 「平等」の解釈

次に、「平等」の解釈について説明する。

この点についても学説上の対立はほとんどなく、14条1項の「平等」とは、不平等な取扱いを絶対的に禁止する趣旨ではなく、区別的取扱いが合理的であると認められる限り当該区別を許容する趣旨であると一般に解されている(相対的平等説)。

前掲の最高裁判決(最大判昭48.4.4)は、憲法14条1項の趣旨を述べるくだりで相対的平等説を明示的に採用している。

参考までに以下引用する。

「よつて案ずるに、憲法14条1項は、国民に対し法の下の平等を保障した規定であつて、同項後段列挙の事項は例示的なものであること、およびこの平等の要請は、事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものでないかぎり、差別的な取扱いをすることを禁止する趣旨と解すべきことは、当裁判所大法廷判決(昭和37年(オ)第1427号同39年5月27日・民集18巻4号676頁)の示すとおりである。」

以上より、判例も通説(多数説)も「平等」の意義については相対的平等説を採用していることが分かるが、現在の論点はむしろ区別を正当化する合理的根拠の有無をいかにして判断すべきかという点にシフトしている。

これは、人種・国籍・性別に着目した差別発言(ヘイトスピーチ)に対する取締りの可否という、言論の自由の限界の問題にも関連する重要な問題意識である。


4 憲法14条1項後段列挙事項が置かれた趣旨

この点については、前掲最高裁判決(最大判昭48.4.4)で述べられているとおり例示列挙説が判例の見解であり、学説上も異論はみられない。

ちなみに例示列挙説の反対説は限定列挙説だが、限定列挙説を採用すると本条項後段列挙事項以外の事項(たとえば学歴)による差別については憲法上の平等権(14条1項)の保障が及ばないことになる。

なお、アカデミックな議論としては、そもそも憲法14条1項は人権(=国家に対して平等な取扱いを求める権利)を規定したものか、あるいは平等原則という一定の客観的制度を保障したものかという見解の対立が考えられるが、いずれか一方のみを規定したと考えるべき理由はないので、人権と平等原則の双方を規定したものと解すべきである。

この点についての判例は存在しないが、前掲最高裁判決(最大判昭48.4.4)等のいずれも14条1項で人権としての平等権が保障されていることを前提とした判示をしている。


5 記述イと記述ウについて

以上の検討により、記述アが誤りと判断される理由が分かった。

誤りは「法適用の平等」という個所と「限定的に列挙されたもの」という個所の2か所である。

記述アの検討に際して、前提知識を整理したことでかなり紙幅を費やした感がある。

そこで、記述イと記述ウについては、端的にポイントだけ指摘しておく。

記述イは、第2文「しかし、…(略)…憲法第14条第1項に違反する。」の全体が誤りである。参照すべき最高裁判決は、売春取締法違反被告事件(最大判昭33.10.15刑集12巻14号3305頁)。

記述ウは、後段すなわち「…両議院の議員一人当たりの人口が…(略)…違憲といわざるを得ない。」が誤り。参照すべき最高裁判決は多数あるが、参議院議員通常選挙の結果について「一票の重みの較差が2対1以上に開いた場合、違憲である」旨述べた判決は一件もない(近時の判例として最大判令5.10.18民集77巻7号1654頁参照)。


6 結論

以上より、アからウまでの記述はいずれも誤りであるから、正解は8である。