司法試験予備試験の問題で民法について考える②:条件

(以下、令和5年司法試験予備試験短答式試験問題(民事系)より引用)


第2問

条件に関する次のアからオまでの各記述のうち、正しいものを組み合わせたものは、後記1から5までのうちどれか。

ア.AがBとの間で、Bが一定期間窃盗をしなかったら10万円をBに与える旨の贈与契約を 締結した場合において、その期間窃盗をしなかったBがAに10万円の支払を請求したときは、Aは、これを拒むことができる。

イ.停止条件付きの動産の贈与契約が締結された場合において、贈与者が信義則に反し故意にその条件の成就を妨げたときは、受贈者は、動産の引渡しを請求することができる。

ウ.互いに同種の目的を有する債務を負担している者の間で、一定の事由が発生したら意思表示を待たずに当然に相殺の効力が生ずる旨の合意をしたとしても、相殺の効力は、その事由の発生によって当然には生じない。

エ.AがBとの間で、Bが甲大学に合格したらAの所有する動産乙をBに与える旨の贈与契約を締結した後、合否未定の間にAが乙を過失により損傷した場合には、Bが甲大学に合格しても、 Aは、Bに対し、損害賠償義務を負わない。

オ.AがBとの間で、Aの気が向いたらBに10万円を与える旨の贈与契約を締結した場合において、BがAに10万円の支払を請求したときは、Aは、これを拒むことができない。

1.ア イ   2.ア ウ   3.イ オ   4.ウ エ   5.エ オ


【解説】

1 イントロダクション

民法における「条件」とは、民法上の意思表示に対する付款の一種である。

付款とは、主たる意思表示に付随する付属的意思表示である。

民法上の意思表示は、民法における法律効果(権利・義務)を発生させる意思を相手方に表示する発話行為である。

たとえば、「あなたの車を300万円で売ってください。」という発話行為は、民法上の売買の申込みに該当し、意思表示の一種である。

この申込みの意思表示に「ただし、300万円の代金は来週買う宝くじが当選したらその当選金で支払います。当選しなかったら車は買えません。」という特約を付けたとすると、この特約が民法上の付款たる「条件」となる。

上記のケースにおける「条件」は、売買契約の効力発生を将来生じることが不確実な事実にかからせる条件であり、当該事実の発生まで売買の効力を停止させる条件であることから、民法上「停止条件」(民法127条1項)と呼ばれる。

停止条件の対となる条件に「解除条件」(民法127条2項)がある。

解除条件とは、契約の効力をいったん発生させるが将来生じることが不確実な事実が生じた場合には、契約の効力を消滅させる条件である。

たとえば、日本学生支援機構から借りている奨学金だけでは学業を継続できない貧しい大学生に対し、裕福な知人が毎月5万円を贈与して援助するが、ただし単位を落として留年することになったら以後の定期贈与をやめるという条件を付ける場合における条件が「解除条件」である。


2 各記述の検討

⑴ 記述アについて

本記述は正しい。

本記述における条件は、「Bが一定期間窃盗を」しないことだが、窃盗はそもそも違法な行為であり、しないのが当たり前である。

窃盗のような違法行為をすること又はしないことを条件とする場合を「不法条件」(民法133条)といい、同条後段は「不法な行為をしないことを条件とする」法律行為(=契約)は無効とする旨定めている。

よって、本記述の贈与契約は不法条件が付された法律行為に当たり、契約自体無効となる。


⑵ 記述イについて

本記述は正しい(民法130条1項)。

本記述のケースを「条件の成就の妨害」という。


⑶ 記述ウについて

本記述は、末尾の「相殺の効力は、その事由の発生によって当然には生じない」が誤り。

正しくは「…合意をした場合、相殺の効力は、その事由の発生によって生じる」。

本記述に関連して参照すべき最高裁判決は最大判昭45.6.24民集24巻6号587頁(※銀行の貸付債権について、債務者(預金者)の信用を悪化させる事情(手形の不渡り等)が発生した場合に当該貸付債権と債務者の預金債権を相殺する旨の合意(この合意は停止条件付相殺合意に当たる。)を有効と認めた事例)。

なお、相殺については別の問題解説の際に詳しく説明する。


⑷ 記述エについて

本記述は、文末の「Aは、Bに対し、損害賠償義務を負わない」が誤り。

正しくは「Aは、Bに対し、損害賠償義務を負う」。

本記述では、贈与者Aと受贈者Bとの間で動産乙を目的物とする停止条件付贈与契約が締結されているが、民法552条1項は「贈与者は、贈与の目的である物又は権利を、贈与の目的として特定した時の状態で引き渡し、又は移転することを約したものと推定する。」と規定している。

本記述においては、贈与契約締結時に既に贈与の目的物が動産乙と特定されているので、AはBに対して贈与契約締結時の状態の乙を引き渡す義務を負うところ(民法552条1項)、合否未定の間にAの過失によって乙を損傷しているから、AはBに対して乙の損傷に相当する損害を賠償する義務を負うことになる(民法415条1項)。


⑸ 記述オについて

本記述は文末の「Aは、これを拒むことができない」が誤り。

正しくは「Aは、これを拒むことができる」。

民法134条は「停止条件付法律行為は、その条件が単に債務者の意思のみに係るときは、無効とする。」と規定する。

単に債務者の意思のみによって発生・不発生が決まる停止条件を「随意条件」という。

随意条件とは、停止条件の発生・不発生を債務者が決める条件であり、法律行為(すなわち契約)の拘束力を無(ゼロ)にしてしまう条件である。

わかりやすく言い換えると、債務者の気分次第で物をあげたりあげなかったりするという契約に過ぎないため、契約を締結していないに等しい。

それゆえ、民法は随意条件付きの契約を無効なものと定めた。


3 結論

以上より、正しい記述はアとイであるから、正解は1である。

条件というテーマは、試験対策上はややマイナー(※頻出項目ではないという意味)なテーマだが、条文知識しか出題されず、関連する条文の数も限られているから、各種資格試験受験生は、試験直前期に民法127条から134条までの条文を2~3度読んでおいたほうが良い。