司法試験予備試験の問題で人権について考える③:集会の自由

(以下、令和5年司法試験予備試験短答式試験問題(公法系)より引用)


第3問

集会の自由に関する次のアからウまでの各記述について、最高裁判所の判例の趣旨に照らして、正しいものには○、誤っているものには×を付した場合の組合せを、後記1から8までの中から選びなさい。

ア.集団行進が行われることによって一般交通の用に供せられるべき道路の機能を著しく害するものと認められ、また、条件を付与することによってもかかる事態の発生を阻止することができないと予測される場合には、当該集団行進について不許可処分がなされたとしても憲法第21条に反しない。

イ.公共の秩序を保持し、又は公共の福祉が著しく侵されることを防止するため、特定の場所又は方法につき、合理的かつ明確な基準の下に、集団行進についてあらかじめ許可を受けることを必要とするとの規定を設けたとしても憲法第21条に反しない。

ウ.皇居外苑などの国民公園は、国が直接公共の用に供した財産であるとしても、集会のために設置されたものではないため、公園を集会に使用するための許可の申請について、公園の管理権者はその許否を自由に決することができ、不許可処分を行っても憲法第21条に反しない。

1.ア○ イ○ ウ○  2.ア○ イ○ ウ×  3.ア○ イ× ウ○  4.ア○ イ× ウ×

5.ア× イ○ ウ○  6.ア× イ○ ウ×  7.ア× イ× ウ○  8.ア× イ× ウ×


【解説】

1 イントロダクション

憲法21条は「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。」と規定している。

集会とは、多数の人が特定の日時に特定の場所に集まり意見交換を行う表現の機会である。

集会と似た概念に「結社」があるが、集会は一時的に集合する機会であるのに対し、結社は定期的継続的に集合する組織・団体を指す点において異なっている。

憲法21条が定める表現の自由には「知る権利」が含まれると解されているが、知る権利とは元来、集会・結社において他者の意見を聞く自由を意味していた。

アメリカ大統領選挙の際、世界的にインターネットが普及した現代においてもなお候補者がリアルの演説集会を多数回開催するのは、単に候補者が自己の政策方針を説明するにとどまらず、聴衆の知る権利を充たす必要性が高いからである。

インターネットに投稿された記事は、大統領候補者のゴーストライターが書いたものかもしれない。

演説の動画もリアルタイムに行われているものとは限らず、AIで生成したものかもしれない。

壇上で身振り手振りを交えながら演説する候補者の姿を目の当たりにすることによって、その候補者が信頼するに足りる人物であるかを有権者たちは知ることができる。

また、演説会場のその場で即座に質問することができる点もインターネット配信演説動画との決定的な違いである(この点、インターネット動画配信でもリアルタイムチャットで質疑応答は可能と考える人もいるだろうが、その回答がAIで生成されていない保証はどこにもない。)。

これが本来の「知る権利」の意義である。

以上に述べたように、集会の自由は、表現の自由の内実を充実させ、自己実現・自己統治に直結する自由として高度の重要性を持つ人権である。

我が国の最高裁判例も、集会の自由の重要性に鑑み、集会の自由に対する法規制に関しては慎重な違憲審査をもって臨むことを原則としている。

とはいえ、集会の自由の行使を無制限に認めると、様々な不都合が生じる。

たとえば、某市の公民館を特定の団体が毎日ほぼ独占的に集会開催のため使用していると、他の団体が集会を開催することができなくなるから、予約制や抽選制を導入して集会を一定程度制限せざるを得ない。

このように集会の目的如何にかかわらず全ての団体に等しく課される、集会日時・場所・方法(例えば大音量のマイク・スピーカーの使用禁止)についての法規制は公共の福祉の観点から必要かつ合理的な規制として許される(=合憲である。)。

本問の記述アとイには「集団行進」という語が用いられているが、これは所謂デモ行進を指している。

デモ行進のことを「動く集会」と呼ぶ憲法学者もおり、これは人々が自らの思想を喧伝する手段として重要な機会であるから、デモ行進の自由は、集会の自由の一種として憲法上保障されている。

もっとも、集団行進(デモ行進)の自由は、一定の場所にとどまる集会の自由と異なり、他者(デモに参加していない他の通行人、デモ行進の沿道に居住する住民など)の人権と抵触する危険性が大きい。

そこで、静的な集会の自由と比べ、動的なデモ行進の自由に対してはより厳しい法規制が課されることがある。

実際に公道上のデモ行進について法規制を定めているのは、国が定める道路交通法と、地方公共団体が定める公安条例である。


2 各記述の検討

⑴ 記述アについて

本記述は正しい。

本記述につき参照すべき最高裁判決は、最判昭57.11.16刑集第36巻11号908頁(※米国原子力空母の佐世保港寄港に反対する団体のデモ行進を不許可としたため当該処分が争われた事例)である。

この最高裁判決(最判昭57.11.16)は「同法(注:道路交通法を指す。)77条2項の規定は、道路使用の許可に関する明確かつ合理的な基準を掲げて道路における集団行進が不許可とされる場合を厳格に制限しており、これによれば、道路における集団行進に対し同条1項の規定による許可が与えられない場合は、当該集団行進の予想される規模、態様、コース、時刻などに照らし、これが行われることにより一般交通の用に供せられるべき道路の機能を著しく害するものと認められ、しかも、同条3項の規定に基づき警察署長が条件を付与することによつても、かかる事態の発生を阻止することができないと予測される場合に限られる」と判示している。

すなわち、「一般交通の用に供せられるべき道路の機能を著しく害するものと認められ、…条件を付与することによっても、かかる事態の発生を阻止することができないと予測される場合」には当該デモ行進について不許可処分がなされたとしても、当該不許可処分はデモ行進の自由に対する必要かつ合理的な制限を課すにとどまるから、憲法21条に反しない。

これが上掲最高裁判決の言わんとするところである。


⑵ 記述イについて

本記述は正しい。

本記述につき参照すべき最高裁判決は、新潟県公安条例事件最高裁判決(最大判昭29.11.24刑集第8巻11号1866頁)である。

新潟県公安条例事件最高裁判決は、「これらの行動(注:デモ行進等を指す。)といえども公共の秩序を保持し、又は公共の福祉が著しく侵されることを防止するため、特定の場所又は方法につき、合理的かつ明確な基準の下に、予め許可を受けしめ、又は届出をなさしめてこのような場合にはこれを禁止することができる旨の規定を条例に設けても、これをもつて直ちに憲法の保障する国民の自由を不当に制限するものと解することはできない」と判示している。


⑶ 記述ウについて

本記述は、「…公園の管理権者はその許否を自由に決することができ」るという箇所が誤りである。

本記述につき参照すべき最高裁判決は、皇居外苑使用不許可事件最高裁判決(最大判昭28.12.23民集第7巻13号1561頁)である。

皇居外苑使用不許可事件最高裁判決は、「国有財産(注:本判決の場合、皇居外苑を指す。)の管理権は、国有財産法5条(当時)により、各省各庁の長に属せしめられており、公共福祉用財産をいかなる態様及び程度において国民に利用せしめるかは右管理権の内容であるが、勿論その利用の許否は、その利用が公共福祉用財産の、公共の用に供せられる目的に副うものである限り、管理権者の単なる自由裁量に属するものではなく、管理権者は、当該公共福祉用財産の種類に応じ、また、その規模、施設を勘案し、その公共福祉用財産としての使命を十分達成せしめるよう適正にその管理権を行使すべきであり、若しその行使を誤り、国民の利用を妨げるにおいては、違法たるを免れない」と判示している。

なお、皇居外苑は当時も現在も国有財産であり、国が所有し管理する国民公園の一種とされている。

上掲判決当時の皇居外苑管理権者は厚生大臣だったが、現在の管理権者は環境大臣である。


3 結論

以上より、記述アと記述イは正しく、記述ウは誤りであるから、正解は2である。